第53話 お金が無いの! その4

 フードコートを出て100m程小走りすると、その「シンさん」とかいう人達に追いついた。


 なるほど、頭にターバン撒いている人がどうやらシンさんらしい?


 その後ろにサリーを羽織った女の人と口ひげを蓄えたムキムキの男の人……うん、いかにもインドラのモンスターハンターって感じだ。


 そのシンさんご一行は、あちこちをキョロキョロ見ることもなく、リラックスした様子で店内を見て歩いている。

どうやら『グランド デポ』は初めてではないらしい。


 すると全く戸惑う様子もなくシンさん一行はスムーズにエスカレーターに乗ると2Fに上がっていった。


「『グランド デポ』に来たの、一度や二度じゃなさそうだな」とエルウッドさん。


 どうやら、私と考えていることは一緒だ。


 2Fに上がるとシンさん達ご一行は迷うことなく一直線でずんずんとレストラン街の方角に歩いていく。


「えーっと、こっち側って……」


「まずいな……」とエルウッドさんも。


 すると、予想通りと言うか……案の定、シンさん達ご一行は『グランド デポ』のレストラン街の中にある『カレーハウス デポ 壱番館』に入っていった。


「あー、『デポ壱』最近行ってないんだよなー」と私。


「なに、お前、あそこの店、行ったことあるの?」と鼻をクンクンとさせてエルウッドさん。


「知らないんですか!?『デポ壱』」私はそう言って目を真ん丸にする。


「知らねーよ!!お前の国の飯屋の事とか!」


 ……あっ、そりゃそうか。だったらしょうがない。説明せねば。


「『カレーハウス デポ壱』とは日本で……いや、この世界でもっとも有名なカレー屋さんなのです!!」と。


「まず、カレーって何だよ!!」


「カレー知らないのですか!!」とインド人もサファイヤびっくし。


「知らねーし!!」とエルウッドさん。


 むむむむー、こりゃ、迂闊だった。考えてみりゃそりゃそうよね。あの世界にはカレールーなんて便利なものは存在しない。まあ、スパイシーな料理は結構あるけど、山椒やトウガラシ系の料理が多いんだよねー。リュージュ地方って。


「どうする、サファイヤ。今から飯となると、20分じゃすまないぞ」


 時計を見ると『グランド デポ』の残り時間は20分を切っていた。


「しょうがありませんね、今日の所は一旦帰りましょう。そして、お夕飯にはカレーです!!」


「…………はぁ?」


「そこは、『ヤッター!!』でしょうが、エルウッドさん!!」


 私の突然の剣幕に首を傾げるエルウッドさん。


「いや、だから、カレーとか知んねーし!!」


「分かりました。じゃあ、さっさと行きますよ」

 

 私はそう言うと、クルっと踵を返す。

 

「ど、どこに行くんだよ!?」とエルウッドさん。


「決まってるだろうが!!地下の食料品売り場だよっ!!」


 そうして私はわき目も触れずに地下一階に一直線。私達は残り15分でマッハのように買い物をしてどうにかカレーの材料を買え揃えたのだった。


 ふー、やれやれ。


 アレ?……そういや私達、今日何しに来たんだっけ?

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