第52話 お金が無いの! その3
「うーん、ベットコインかー」
「なんじゃい、そのベットコインとやらは」
「仮想通貨って奴ですよ」
「通貨に仮想も現実も関係無いだろ。通貨って言ったら昔っから金貨って相場が決まってる」
「こちらの世界じゃあ、そういう訳にもいかないんですよ!!」
「ふーん、いろいろ面倒なんだなー、そっちの世界ってやつは」
ここはいつもの『グランド デポ 東京幕張店』……の中にある古本屋『ブック デポ』
『グランド デポ』資本の全国チェーンの古本屋さんだ。
私とエルウッドさんは、どうにか手持ちの100万円を増やすことはできないのか、いろいろと作戦を練っていたところだ。
というわけで、何か良いアイデアは無いか探すために、『ブック デポ』でいろいろと立ち読みして勉強している真っ最中です。
ちなみに今私が読んでいる本は、『仮想通貨で億り人』
なるほどー、すごいなー、「仮想通貨」って奴は、一年間で100倍かー。
ってことはアレか、今手持ちの100万円が1年で……一億円かー、そりゃー、億り人だなー。サファイヤ困っちゃうー。
ちなみに後で秘密基地で読もうと思ってカゴにキープしている本は、「秒速1億円を稼ぐためのFX」やら、「世界通貨の円楽であなたも家族も幸せに」とか、「レモン協同組合の愉快な仲間たち」など……
すごいなー『ブック デポ』は、こんな簡単にお金儲けできる本がワゴンセールで全品1円で売ってるだなんて。
サファイヤもこれであっという間に大金持ちだー。サファイヤ困っちゃうー(二度目)
ところで、なーんか、エルウッドさんが険しい目で私のことをさっきから見ているのは……うん、きっと気のせいだね。
「で、なに、結局のところ、お前は口座に残っているお金をバクチに突っ込んで増やそうって考えてるのか?」といつになく険しい表情のエルウッドさん。あれれ、こんな顔もできるんだ。
「ちがいますよー、バクチじゃありません。投資です。投資!!そんなカジノのギャンブルなんかと一緒にしないでください」
「なにがどう違うのか俺にはさっぱりわかんねーぞ」とエルウッドさん。
「こっちはいろいろ勉強してリスクヘッジとか考えてるんですよ。そんな丁半バクチとは全然ちがうんですよ」
「そんなリスクヘッジだかリスのしっぽだか知んねーけど、他に方法無いのかよ。大切な貯金なんだろ」と妙に慎重なエルウッドさん。モンスターと戦う時とはスタンスが全然違う。
「大体、向こうのお金をこっちに持ってこれない以上、こっちのお金を増やすしかないじゃないですか」と私。
私とエルウッドさんは、とりあえず、『ブック デポ』で買ってきた本をパラパラ読みながら、フードコートで一休み。
「だから向こうのお金をどうにかこっちで使えないか考えないのか?」とエルウッドさん。
「だめですよー、そんなことしたら、偽のお金使ったってことであっという間に御用ですよー」
「いや、そういうのじゃなくてさ、向こうの世界のものをこっちに持ってきてお金に変えることとかできないのかよ」とものすごい真剣な顔をしてエルウッドさん。あれれ、いつもと雰囲気違いますよ。
うーん、向こうの武具とか民芸品を持ってきてこっちでネットオークションとかめんどくさいしなー。まあ、できなくはないけど……
「こっちの世界で売れるようなものとかありますか?あっちの世界で」と私。
「金とか宝石とか」とアイスコーヒーを飲みながらエルウッドさん。
「鑑定書は?」
「鑑定書!?」
「そうですよ、宝石売るとなったら鑑定書が無いと売れませんって!!」
「そっ……そういうものなのか?」と目をぱちくりするエルウッドさん。
「まあ、無くても売れると思いますけど、それだと二束三文にもならないと思いますよ」とドーナツを食べながら私。
「うーん……なかなか難しいんだなー」と手を組んでエルウッドさん。
私もこちらに来ているときにネットで調べていろいろ考えたのだが、そもそも、向こうの世界の宝石とこちらの世界の宝石の価値が全然違うし、大体、オークションサイトで売るにもれっきとした鑑定書が無いと全然入札されないのだ。それに入札されるのは大手の宝石商なんかの公式アカウントと相場は決まっているし……
すると、「それはそうと、サファイヤ、今日は妙に普段の俺達みたいな恰好をした客が多いな」とあたりを見回しながらエルウッドさん。
私も周囲を見回してみると……確かにダンジョンでのパーティーのような恰好をしたお客さんが多い。白いローブを着た金髪の女性やら筋肉モリモリのモヒカンヘアの男の人やら、中には金色の袈裟をしたお坊さんだか神父さんだかわけわかんない格好をした人が結構いる。おやおや、兜を被った勇者さんまでいるぞ。今日は幕張ででっかいイベントかなんかあるのかなー。と思っていたら、
「ちょっと、ちょっと、ちょっと」と体を屈めてエルウッドさん。
「どうしたんですか?いきなり」とまるで逃亡者のように顔を隠して屈むエルウッドさんに声を掛ける。
「お前、あいつら、こっちの世界の仮装パーティーに出る連中だとか言ってなかったか?」と声まで潜め始めたエルウッドさん。
「仮装パーティーって……まあ、コスプレですよね。近くにでっかいイベント会場があるんですよ」と。
すると……「知ってる顔がいた」と。
「はぁ?」
「だから、向こうの世界で知ってるやつが今歩いてたんだよ!!」とエルウッドさん。
「そーんなー、私達じゃあるまいし」……とそこで、あっと気が付いたのだ。
私達がいるのだから、私達のような人が他にいても全く不思議ではないのだ。……と。
「向こうの世界でって、誰です?」
私もエルウッドさんに倣って体を屈めて顔を見られないようにする。
「お前は大丈夫だ、二人してそんな恰好をしていたら逆に目立つ」とエルウッドさん。
まっ……まあ、確かに。私は姿勢を正して何事もなかったかのようにする。
「でっ、誰なんですか?知ってる顔って」
私は顔を明後日の方向に向けてエルウッドさんに尋ねる。
「大丈夫だ、もう行った」エルウッドさんはそう言うと姿勢を直して私に言った。「以前、チベール高原で会ったことのあるインドラのハンターだ」と。
「チベール高原!?インドラ!?」
インドラと言ったら、我が国の南方に位置する大国だ。
「ああ、以前チベール高原で、インドラ政府と合同で行ったスノードラゴンの掃討作戦に参加した時に会ったことのあるハンターだ。たしか、名前は……シンだったかな」
「シンさんですか?」
「ああ、それにあの時のパーティにいた奴も何人かいた」と。
どうやら、エルウッドさんの真剣な表情から、勘違いや見間違いではないことが伝わってくる。
「ど……どうします?」時計を見る。『グランド デポ』にいられる時間はあと30分ほどだ。
「尾行(つけ)る」とエルウッドさん。
「えーっと、私は?」
「邪魔にならないようについてこい」
エルウッドさんはそう言うと立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます