第45話 エースの覚醒 その5
「えええええええええええー、王立防衛軍の北壁国境警備隊っていったらエリート中のエリートさんじゃないですかーしかも中尉ってぇぇー!!!」
「元なっ!」とそれだけ言ってそっぽを向くエルウッドさん。
「えっ!エッ!!えええー!!!何で、何で、何で、!?!?なんで王立防衛軍のエリートさんがこんな場末の居酒屋でくだ巻いてんですかぁぁぁー」
そもそも、王立防衛軍の北壁国境警備隊とは、我が国建国以来の脅威とされている北の大国ローレシアからの侵略を守るために設立された部隊であり、国境沿いに建てられた長さ1万キロにも及ぶ『最果て北壁』と呼ばれる絶対防衛線を死守する『祖国ユーレシアの守護者』と言われる王立防衛軍の中でも精鋭中の精鋭が集められた集団なのだ。
その部隊に配属されるだけでもエリート中のエリートと言われているのに、しかもこの若さで中尉!?一体どんな功績をあげられたんですかこの人!?
すると、目を真ん丸にして口をパクパクしている私を見てノエルさんが「あれっ、もしかして、サファイヤちゃん、『北壁国境警備隊』って言っただけで大体分かってたりする?」と。
私もようやく頭の中が整理できて来たので、「そりゃー分かりますよ。だって私んち、王宮に使えてた家ですよ。それくらいのことなら知ってますって!」と。
「まあ、そもそも、コイツんち、先祖代々ユーレシアに使えている軍閥の家系だし」とベイルさん。
「ええ、生まれながらの黒魔法使い。しかも先祖代々の火炎魔法系の家系と来れば、軍もやすやすと手放しませんよ」とナジームさん。
まあ、確かに……『氷の大国』と言われているローレシアの天敵と言われる火炎魔法系の家柄だったら、国もおいそれと手放さないでしょう。
「んで、何でそんなにご立派なお家柄の人が、こんな場末の居酒屋でくだ巻いてるんですか?」と私。
「ごめんね、場末の居酒屋で」とちょうど頼んでいた水餃子を持ってきてくれた『グッドルーザー』のマスター。あっ、ごめんなさい。いつもお世話になっております。ここの水餃子プリプリで美味しいですよね!!
すると、むすーっとした顔で頬杖つ突くエルウッドさんとニヤニヤと笑いをこらえているそれ以外の3人。
うーん、これはエルウッドさんに聞くよりも他の人に聞いた方が話が早そうですねー。
「それが、聞いてよ、聞いてよ、サファイヤちゃん」と誰よりもうれしそうにノエルさん。
なるほど、ノエルさんに聞くのは一番面白そうだ。
「なにやらかしたんですか、この人?」とニヤニヤが止まらない私。
「それがこの馬鹿、軍事作戦報告の謁見の時に、国王の目の前で直属の上司ぶん殴ってやんの」と腹を抱えてゲラゲラ笑いだした。
「いやー、ハトが豆鉄砲くらうってああいう顔なんだなーって」とこれまた嬉しそうにノエルさん。
「でも、私も初めて見ましたよ。国王謁見の際にあんなアホなことする人を」とこっちはさめざめとしたため息をつくナジームさん。
「ふん、あの場で殺されなかっただけありがたいと思え」と憮然な表情でエルウッドさん。
「えっ、えっ、えっ、もしかして皆さん、その当時からのお知り合いなんですか?」
「うーん……というか、俺とエルウッドは子供の頃からの幼馴染」とノエルさん。
はぁ、まあ、確かにそんな感じはしてましたね。
「俺は当時同じ舞台にいた仲間……まあ、当時はエルウッドの方が上官だったけどな」とベイルさん。
「私は、エルウッドのうわさは以前より聞いてましたが、初めて見たのはあの謁見の時でしたね」とナジームさん。
はへー、そういう間柄だったのですね。そりゃ、チームワークもばっちしですわ。
「でも、エルウッド。あなた、もしあの場で刃傷沙汰なんて起こしたら、その場で銃殺刑でしたよ」とここだけは真面目に非難するナジームさん。
「ふんっ!だからあのアホたれの鼻の骨一本で我慢してやったんだろうが。あの無能上官めが!!」と何かを思い出したのか激おこぷんぷん丸のエルウッドさん。
まあ、その上官とのお話は今度暇な時にノエルさんにでもゆっくり聞いてみるか。その方が先入観も偏見もないホントの話が聞けそうだし。
そんな感じで思いもかけず、エルウッドさん達のバックボーンを聞けた一日でした。
さて、明日はいよいよフロア12に挑戦だー!
早く宿に帰って寝るぞー!
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