第44話 エースの覚醒 その4
「そうですね。そもそも、ダンジョン戦におけるモンスターの系統がエルウッドにとっては相性が悪いんですよ」とナジームさん。
「モンスターの系統!?」
「はい、ダンジョンの性質上、階層が下がれば下がるほど、地中のマグマのマナを得たモンスターに出くわす可能性が高くなってくるのです」
「あー、確かに」
そういえば、階層が下がるほどに、「ファイヤーウルフ」や「レッドサラマンダー」、「マグマオーガ」なんかの炎属性のモンスターとの遭遇率が上がってきている。
「そして、エルウッドは炎属性の黒魔法使い。そもそもここのモンスターとの相性は悪いのですよ」ナジームさん。
「なるほど。じゃあ、またなんでこの「ダンジョン204高地」でなんかダンジョン戦を?」
「そりゃなー……」そう言って、エルウッドさん、ベイルさん、ノエルさんが顔を見合わせる。
「そりゃーって?」
「そりゃ、タイパとコスパが良いからに決まってんじゃん」とニンジンスティックを振りながらエルウッドさん。
「タイパ?コスパ?」
「はい、タイムパフォーマンスとコストパフォーマンスですね」とナジームさん。
ああ、確か、その話、前にもしたわ。
「お前も、一週間かけて雪山で待ち伏せして、出くわしたモンスターがスノーラビット一匹だった時の絶望感って奴を味わえば分かるよ」と散々な顔をしてエルウッドさん。
「ああ、確かに、アレは酷かった」とうんざりした顔のベイルさん。
「うん、ああいう現場はもうこりごりだ」と何かのトラウマを思い出したようにノエルさん。
「大体、薬草の使い道がモンスターとのダメージ回復ではなくて、凍傷を直すために使ってましたからねー」としみじみとナジームさん。
「あーりゃ、とんでもねえ、ガセネタ掴まされたわ」とうんざりした顔のエルウッドさん。
「あと、タクマクラン砂漠での空振りとか」とノエルさん。
「ありゃー、遭難しかかって死にかけたわ」とベイルさん。
「ああ、ナジームがムーブを唱えるんだけれど、行けども、行けども、誰もいなくなった廃村ばっか、最後に行きついたオアシスでどうにも命が助かったよ」とノエルさん。
なるほどー。そう考えると、ダンジョンに入ればさほど苦労せずともモンスターと遭遇することができるここって、相当恵まれた職場……もとい、狩場だったんですねー。街にも近いですし……
「そもそも、俺達も、まさかここに、こんなに長居するつもりはなく、ちょっと金稼ぎできたらいいなーくらいのつもりで来たからなー」とエルウッドさん。
「それが思いもかけず、サファイヤさんのお陰で、今ではこの『ダンジョン204高地」で他のパーティーを大きく引き離してトップを走ってますからねー」とナジームさん。
「そうそう、ダンジョン戦でトップ走ってるのって、たしか初めてなんじゃねーか?」とベイルさん。
なるほど、そう考えると、皆さんの考え方というのも理解できる。
私は、ここでの目標はこのダンジョンを制圧してなんぼだと思ってたのだ。そもそもの認識がズレていたのですね。
「ただ、ここまで来たら、トップのままこの『204高地』を制覇したいな」とノエルさん。
「ええ、そうしましたら、王宮に呼ばれて特別報奨金と王様の謁見とご褒美を頂けるかも知れませんし」とホクホク顔のナジームさん。
なるほど、みなさんが、エルウッドさんに対して、そんなに不平不満が出てない理由と言うのもよくわかった。
「ところで、ダンジョン戦が苦手って言うと、エルウッドさんは何が得意なんですか?」
すると、「そりゃ、こいつの得意なフィールドって言ったら、山岳地帯だよ」とエルウッドさんではなくノエルさんが言った。
「ええ、特にチベール地方の雪山でのスノードラゴン討伐の時は向かうところ敵なしでしたもんね」と感嘆のため息をつきながらナジームさん。
「ああ、全く手が付けらんないってああいう事言うんだろうなー」としみじみとベイルさん。
「特にラスボスのスノードラゴンをアンリミテッドの『ファイヤーストーム』で屠った時は一緒にいた俺が腰抜かしたもんなー」とクックと思い出し笑いをしながらノエルさん。
「そうそう、なんで、戦ってないお前の方がダメージ受けてるんだよってエルウッドに飽きられてたもんなーお前」とニヤニヤ笑いながらベイルさん。
「止めてくれよーありゃ、俺にとってはトラウマなんだからー」と頭を抱えてノエルさん。
あらやだ、エルウッドさんってもしかして有能なの?
私は目をぱちくりさせてエルウッドさんをマジマジと見る。
すると……「お前もしかして、お前、相当無能とでも思ってるんじゃねーのか?」と図星を指してくるエルウッドさん。
「いえいえいえいえ、そんなこと無いですよ。はい……」と最後の方は声が小さくなってしまった。
「まあ、でも、このダンジョン戦でのエルウッドの仕事っぷりを見たらしょうがねーか」とゲラゲラ笑うベイルさん。
「そりゃ、そうだよなー。最近やってるのって僕たちのサポート位だもんなーエルウッド」とアルコールが良い感じに回って来たのかご機嫌のノエルさん。
「あと、『グランド デポ』でも酷かったってサファイヤさんから聞いてますし」とナジームさん。
「「「はい、はい、はい」」」と頷く皆さん。(エルウッドさんを除く)
まあ、皆さんにも私の思っていることは薄々分かってたかもしれないので、こうなったら、嘘偽りなく正直に私の気持ちを伝えようじゃないか。
「ごめんなさい、エルウッドさん。私、正直、エルウッドさんの事、口だけ番長だと思ってましたと……」
「だよなー」とゲラゲラ笑うノエルさん。
「しょうがない、しょうがない、ここ最近のこいつの働きっぷりをみたら、誰だってそう思うさ」とベイルさん。
「まあ、今まで散々お世話になって来てますので、たまにはその恩返しをねしなくては……ねっ、リーダー」とナジームさん。
「なるほどねー、確かに、ここ最近のこいつを見たらそう思うのはしょうがねーな。でも、そもそも、こいつ、王立防衛軍の北壁国境警備隊の中尉さんだったんぜ」と親指でエルウッドさんを指さすベイルさん。
「バカっ……」と余計なことを言いやがってって顔のエルウッドさん。
「へっ!?王立防衛軍(おうりつぼうえいぐん)!?北壁国境警備隊(ほくへきこっきょうけいびたい)!?中尉(ちゅうい)!?って誰が???」と目を真ん丸にして私。
「「「こいつ」」」と言って、ベイルさんとノエルさんとナジームさんがエルウッドさんを指さした。
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