第43話 エースの覚醒 その3

「それでは、輝かしい我らのパーティーの未来に向けて」


「「「「カンパーイ」」」」


 といつものように『居酒屋グットルーザー』で反省会という名の飲み会をする私達。


「いやー、今日も圧倒的だったではないか、我が軍の戦いは」と。ご満悦のエルウッドさん。


「ほんと、ほんと、俺の出番なんか、最後の方にちょこっとだよ」と豪快にビールをあおるナジームさん。


「そんなことないって、みんなのサポートがあったから、今日もどうにかなったんだって」と誇らず驕らず高ぶらずのノエルさん。そういうとこから人柄が滲み出て来る。


「ええ、リーダーとベイルさん、そしてサファイヤさんがいるから、私も集中して戦闘に力を注ぐことができるのですよ」とこれまた、人を立てることを決して疎かにしないナジームさん。


「いやー、そう言われると、照れるなー」とただ一人、恐縮することも謙虚になることもなく他人の言葉をそのまま鵜呑みに受け取るエルウッドさん。あんたホントにリーダーなの!?


 まあ、ともかく、そんな感じでお互いを褒め合って自己肯定感をモリモリに高め合う私達。確かにそういう場で飲むお酒って美味しいんですけどねー。


 でも、徹頭徹尾自画自賛し続けてもあまり得るものが無いと思ったアルコールが一滴も入ってない私は、一人冷静に最近の戦いっぷりを振り返る。


「というか、今日もエルウッドさん、殆どサポートに回っててモンスターを倒してないんですけど、このまま下の階層にいっても大丈夫なんですか?」と。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 あらやだ、思いのほか核心を突いた質問だったらしく、皆さん黙ってしまいました。えーい、ついでだ。


「今日の戦いでも、私がこの前作ったガスボンベと火炎瓶の投擲器の出番が無かったんですが、今のうちにいろいろ確認したいことがあるんですよね」


「オッケー、オッケー、分かったよ。明日はサファイヤにも出番作っておいてやるから、こうカリカリしなさんなって」と目の前の厄介ごとから目を逸らす我がリーダー。そう言うとこやぞ、自分、リーダーとしての資質が今いち欠けている所って。


 暖簾に腕押しだと思った私は、あえて、エルウッドさんにもキツイことを言う。


「大体、エルウッドさん、最近、魔法の方でもいまいちじゃないですか。ここにいるベイルさんノエルさんナジームさんに比べて明らかにKILL OUT率低いですし、下手したら私とどっこいどっこいなんじゃないですか?」と。


「………………」と口を噤んだまま目を逸らすエルウッドさん。


 気まずい空気がテーブルの上を漂っていく。


 すると、「まぁ、そういうなよ、サファイヤちゃん」と間に入ったのはベイルさん。


「そうそう、正直俺達も、ここではエルウッドにそんなに期待してないから」とノエルさん


「ええ、人には得手不得手と言うものがありますからね?」とナジームさん。


 思いのほか、エルウッドさんに優しいパーティーのみんな。あれあれ、もしかして、今、私、悪役ですか!?


「まぁ、魔法体系を正式に学んでらっしゃらないサファイヤさんには納得できないかもしれませんが、正直、今のエルウッドの状況については私達は十分に予想できたことですので、さほど不満など持ってはいませんよ」とナジームさん。


「そもそも、エルウッドの奴はダンジョン戦は苦手だしなー」ベイルさんはそう言って生ぬるいビールを呷ると「ガハガハ」と笑った。


 えっ!?不満に思ってない?そして、うちのリーダーはダンジョン戦が苦手!?!?


「ちょっと、ちょっと、ちょっと、それ、どういう事なんですか?私聞いてないんですけど」


 すると、みんなで顔を見合わせる私以外のパーティーのみんな。


「えーっと、どうしますか、エルウッド」とナジームさん。


「まあ、自分の口から言うのもアレだし、ナジーム、お前が説明してくれよ」と野菜スティックをぽりぽり食べながら投げやりにエルウッドさん。


「そうだな、ナジームに説明してもらうのが間違いないや」とノエルさんも。


「ちげーねー、ちげーねー」とおやおやベイルさんもですか?


 まあ、ナジームさんに言われるのなら私も納得しますけど……というわけで、「お願いします」と私はナジームさんに頭を下げた。



「では、何からお話すればよろしいですか?」と質疑応答タイプで話を始めるナジームさん。


 なるほど、確かにこのやり方なら頭の中にもすっぽり入ってくる。持論を滔々と述べることしかできないどこぞの無能な指導者にも見せてやりたい所だ。


「でしたら、えーっと、エルウッドさんがダンジョン戦が苦手ってどういう意味ですか?」といきなり核心を付いた質問をする私。容赦ないね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る