第42話 エースの覚醒 その2

 ……二週間前、フロア11にて、


 米軍放出品の迷彩ネットを頭からかぶったノエルさんとナジームさんが岩場の影から辺りの様子を伺っている。


 私とベイルさんとエルウッドさんはその後方で息を殺して待機。


 ネットをわずかにずらしその隙間から顔を出すナジームさん。その右目には赤外線スコープが、そして左目には暗視スコープが装着されてる。


 するとライフルスタイルのレーザーポインターでモンスターを照射するナジームさん。


 拡大スコープでその様子を見ていた私にもほんの一瞬、赤い点が見えたと思った瞬間、ヒュン!と空気を切り裂く音が……直後「ギャ!」とモンスターの断末魔。さらに、ヒュン……ヒュン……と、立て続けに二本の矢を射るノエルさん。


 ワンテンポ遅れて、今度は二匹のモンスターが声も出さずに倒れてゆく。

 そこに至って初めてモンスターはやっと自分達が攻撃を受けていることに気が付いた。


 すぐさま戦闘態勢に入るモンスター達。だが私達の正確な位置はまだ分からない。


 すると、ナジームさんが手を上げる。


 ペットボトルロケットの発射の合図だ。


 私はトリガーを引くと、音を立てながら前方のモンスターに向かってペットボトルロケットが発射していく。弾頭が青白く光って見えるのはナジームさんのマナが宿っている証拠だ。


 まるで誘導弾のように、黒色火薬弾頭のペットボトルロケットはモンスター達のど真ん中に着弾すると派手な爆発音を立てながら鉄片をまき散らす。


 致命的なダメージを負ったモンスターの集団はそれでも本能からか私達パーティーに向かって襲い掛かって来た。


 そしてその時になって初めて、そのモンスターの集団が「ファイヤーゴーレム」と「レッドサラマンダー」、そして「アースジャガー」だということが分かった。だが既に相当の手負いとなっている。


 すると、「ファイヤーウォール」とエルウッドさんが火炎魔法を唱えると、モンスターと私達の間に巨大な炎の壁が現れた。


 足が止まったモンスターの集団。と、その瞬間を待ち構えてたかのように頭上からはナジームさんの「チップソー」が、地上からはベイルさんの「投げ斧(トマホーク)」とノエルさんの弓矢が次々と襲い掛かる。


 そして、モンスター達は私達に攻撃するどころか、前に立つこともすらままならずに全滅した。



 倒したモンスター達のマナを回収しながら「最近じゃあ接近戦を全然やってないから腕がにぶったかもしんねーなー」とベイルさん。


「まあ、モンスター達がやってくる前にこの二人があらかた片付けちまうからなしょうがねーよなー」とエルウッドさん。


「まあ、それもこれもサファイヤちゃんのお陰だし、それにわざわざリスク背負ってモンスターと接近戦に挑むってのもなー」とノエルさん。


「まあ、そうなった時のためにベイルさんが最後に待ち構えているのですからね」とナジームさん。


 ノエルさんの『コンパウンドボウ』とナジームさんの『カットソー』と『ペットボトルロケット』が我がパーティーの主力兵器となってからというもの、うちのチームの基本戦術は『ファストアタック ファストブレイク』をモットーとする事になった。つまり、先制攻撃をして、相手の陣形が整う前に勝負をつけるという訳だ。


 そうすれば、必然的に私達が攻撃を受ける可能性も低くなってくる。リスクを可能な限り避けて最大限の成果を得る……それが我がパーティーの基本コンセプトなのだ。


 最近では私のガスボンベも火炎瓶もあまり必要としなくなってきている。


「たまにはチェーンソーを使ってやらねーと、ノコギリの刃がさび付くって訳じゃねーけど、エンジンの調子が上がらなくなっちまうかもなー」とベイルさん。


 ベイルさんがメインとなって戦っていたころは他パーティーの人達から『ブラッティーベイル(血まみれのベイル)』と恐れられた程だったのだが、最近ではそのあだ名もとんと聞かなくなってしまった。


 その代りに私達のチームに付いたニックネームが『サイレント キラーズ』だ。


 「沈黙の殺し屋達」……もっとも、その大部分の意味をノエルさんとナジームさんが背負っているだけあって、チーム内でもエルウッドさんやベイルさんはあまり気にいってるといった感じではない。


 しかし、今、乗りに乗っているノエルさんとナジームさんの先鋒隊コンビをあえていじる必要もないために、個人個人がそれぞれの仕事に対して責任を持って淡々とこなしているというのがここ最近の我がパーティーの現状だ。


 もともと遠目と夜目が聞くノエルさんだったが、ナジームさんも敵の探索能力には定評があった。そこに私がネット通販で購入した米軍放出品の「暗視スコープ」と「赤外線スコープ」がハマったのだ。

 

 この二つの性能を持つスコープを右目と左目に付けたナジームさんが次々とダンジョン内に隠れているモンスターを見つけ出すと、ライフルスタイルのレーザーポインターで照射していく。


 するとノエルさんはその目標に向かって『コンパウンドボウ』を発射することだけに集中できるようになったのだ。


 チート級のスコアを次々と上げていく我がパーティーの先鋒の二人。


 もともとの大黒柱のベイルさんとエースのエルウッドさんの出番の前に敵を片付けてしまうようになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る