第41話 エースの覚醒 その1


 『宿屋アニータ』の部屋に一つある窓から朝の光が差し込んで来た。


 私はベッドの中でゆっくり伸びをするとどこからか小鳥のさえずりが聞こえてきた。


 今日は一週間ぶりの休日だ。


 月曜日から5日連続でダンジョンで戦ったとあって、体の節々のあちこち痛む。


 今週もいろいろ頑張ったもんなー。


 ナジームさんは先日遂に、黒色火薬の調合に成功して、ペットボトルロケットの弾頭に爆薬を仕込むことに成功したのだ。


 しかし『グランド デポ』で買った肥料であんな簡単に火薬を調合出来るだなんてサファイヤびっくし。ほんとナジームさんって物知りなんだなー。


 その上、ナジームさんの考えで、火薬と一緒に釘や鉄くずを混ぜて爆発させたら……ちょっとエグイことになってしまった。ほんと取り扱いに注意しなくては。


 そして昨日、他のパーティーを押さえて、私達のパーティーがトップでフロア12を制覇したのだ。


 現在の所、総収入でも経験値でも我がパーティーは圧倒的トップを独走している。


 独走の理由はいろいろあるのだが、特に今週はエルウッドさんが大活躍だったのだ。


 最近ではベイルさんやノエルさん、それにナジームさんの陰に隠れて目立たなかったけれど、新魔法を会得してからのここ一週間、獅子奮迅の活躍でリーダーとしての面目躍如。


 流石は我がパーティーのリーダー、レオン・エルウッドここにありというところをみんなに見せつけた。


 この分で行けば、冬が来る前にこの「ダンジョン204高地」を完全攻略できるかもしれない。


 今日はご褒美にエルウッドさんを久しぶりに『グランド デポ』に招待してあげようかなー……なんて、そんなことを考えながら、大きな伸びをもう一回。


 するとその時……なにやらベッドのすぐそばで人の気配を感じのだ。


 私はそのままの格好で固まってしまった。


 そのまま10秒……20秒……30秒、私は恐る恐る体勢を元に戻すと、息を止めてあたりの様子を伺ってみる。


 すると確かに私のすぐそばに……人の気配が確実にある。


 こんな朝っぱらから、泥棒ですか?


 それとも私に何かの用があるの?


 いや、もしかして、昨晩、明日が休みだからと言って私の部屋で飲み明かして誰かがその場で寝落ちてしまったとか……いや、それはない。


 なぜなら、昨日は『グッドルーザー』で別れた後はみんなそれぞれ自分の部屋に帰ったはずだ。


 じゃあ、一体誰が!?


 私はもう一度ゴクリとつばを飲み込むと、息を殺して枕元に置いてある、家宝のナイフを手に握る。


 いざとなったら、これを使って……私は呼吸を整え、一気にがばっとベッドから起き上がると……ベッドのすぐ下でエルウッドさんが正座をしながら両手と額を床にくっつけ突っ伏していた……つまり土下座の格好でいるわけだ。


 ビビらせやがって、エルウッドさんか、朝っぱらから何やってんだか……


「おやようございます。エルウッドさん。って、何やってんですか、人の部屋で朝っぱらから?」と私。


 すると、「おはようございます。サファイヤ様」と土下座をしたままエルウッドさん。


 私は頭をポリポリ書きながら、『あー、もー、一体なんなん!?』と心の中で毒づきながら「でっ、なんの用ですか?」とエルウッドさんに尋ねてみると……


「サファイヤ様にお願いがあります」とまるで直訴しに来たお百姓さんのようなエルウッドさん。


 人の部屋に朝っぱらから押しかけて「お願いがあります」って正気かいっ!エルウッド!!


 あーもー、めんどくせーなー。まぁ、大方予想はつくけれどさ……


「で、お願いって何なんですか?」と私。


 するとエルウッドさんは相変わらず土下座したままで、「お願いします。サファイヤ様。勘弁してください。痛いのはもう嫌なんですぅぅぅぅ」と言ってその場で泣き出した。


 すると、ベッドの隣から「おはようございます。エルウッドさん。何か荷物を持ちますか?」と『デポ吉くん』。


 休日の朝っぱらからカオスがクライマックスな私の部屋。


 私は「はあぁぁぁぁぁぁー……」と大きなため息を一つ吐(つ)くと、布団を頭からかぶり、今のは見なかった事にして、二度寝を決め込んだ。

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