第40話 デポ吉君 登場!! その4

 …………1時間後、


「ほほーう、これがサファイヤが新しく買ってきた台車か、すっげーなーコレ!!」と言って驚いているエルウッドさん。


「台車じゃありません、『デポ吉くん』です!!ねー、デポ吉くーん」


 すると……「はい、僕の名前はデポ吉です。サファイヤさん、何か荷物を運びましょうか?」とデポ吉くん。


「すっげー、サファイヤちゃんの世界の台車ってしゃべるんだー、まじでー」と目を真ん丸にするノエルさん。


「はい、はじめまして、僕の名前は『デポ吉』です。お兄さんの名前はなんていうのですか?」


 『デポ吉くん』に話しかけられてびっくりするノエルさん。


「はっ、はい、僕の名前はノエルって言います。ノエル・ランカスター。よろしくね『デポ吉くん』」とノエルさん。


「はい、ノエルさんですね。よろしくお願いします。ところで横にいる方はどなたですか?」


「ええっ、私のことも分かるのですか?」と滅多なことでは驚かないナジームさんがびっくり。


「ええ、『デポ吉くん』って、赤外線センサーついてるんで、近くに人が来ると自動的に分かるんですよ」


「えーっと初めまして、私の名前はナジームです。よろしくお願いします」


 すると、「はい、ナジームさんですね。僕の名前は『デポ吉』です。よろしくお願いします」とモニターの中でぺっこりお辞儀する『デポ吉くん』。うん、エルウッドさんよりも礼儀が正しい。


 さらに私は『デポ吉くん』のデモンストレーションをみんなに見せると、またまたびっくし。


「なにこれなにこれ、勝手について来るの?」とノエルさん。


「これ、中に誰かはいっているのか?」と真剣な表情でエルウッドさん。


「いや、これは……さすがに凄すぎますね」とナジームさん。


 と、ひと段落したところで、「ところでこれ、一体いくらするんだよ」とエルウッドさん。


「………………」


 答えられない私を見て、なんかいろいろと察した皆さん。


「おい、ベイル、お前も一緒に行ってたんだろ、一体いくらするんだよコイツ」と意外とそういうところは鋭いエルウッドさん。ホント余計な所だけ、いい勘してやがんな。ってか、この子はこいつじゃありません、『デポ吉くん』です。今度「コイツ」呼ばわりしたら、テメー、ぶっ飛ばすからな!!


 すると、「ほらよ」ベイルさんはそう言って一枚の紙切れをエルウッドさんに渡した。


「なんだ、なんだ、これ……98,000円ってことは……980マニーってことかよ。またずいぶんと高い買い物を」と渋い顔してエルウッドさん。


「へー……思ったよりも、安いんだな『デポ吉くん』……」と意外そうな顔でノエルさん。


「ええ、正直もっとするのかと思ってましたよ」とナジームさん。


「ちがう」とベイルさんはボソリと言った。


「えっ、何が違うんだよ」とエルウッドさん。


「そうだよ、確かに¥98,000って書いてあるじゃん」とベイルさんから渡された紙をひらひらするノエルさん。


「えーっとコレって……契約書って書いてますねー」と最近日本語の読み書きが達者になって来たナジームさん。


「「「契約書!?!?」」」


「はい、ここには、リース契約書と書かれてますねー」


「リース?」とエルウッドさん。


「契約書」とノエルさん。


「おい、サファイヤ、これいくらしたのかちゃんと答えろよ」と人の財布の事なのに妙に口出ししてくるエルウッドさん。


「そこに書いてある通りですよー」と私。


「おっ、おい、ナジーム、なんて書いてあるんだよ、そこには?」と私じゃ埒が明かないと思ったのか、エルウッドさんは辞書を片手に契約書を必死に解読しているナジームさんに聞く。


「えーっと、『リース契約契約書 初回契約分』って書かれてますね?」


「しょ、初回だぁ!?!?」


「はい、初回¥98,000で、次月以降¥65,000と……」


「じ、次月以降だぁ!?!?」


「は、はい、この契約書によりと、最初の月は980マニー払って、毎月650マニー払いながらこの『デポ吉くん」を『グランド デポ 東京幕張店』さんからお借りするという契約です」


「か、買ったんじゃねーのかよ、コレ!!!」と『デポ吉くん』を指さして目を真ん丸にするエルウッドさん。


「しかも、毎月650マニーって」そう言うと口をパクパクさせて言葉を失うノエルさん。


 すると、「よろしくお願いします。みなさん。僕の名前は『デポ吉』です。何かお荷物持つものはありませんか?」と。


「大丈夫だよー『デポ吉くん』、なにかお手伝いしてもらうことができたらお願いするねー」と私。


「おま……おま……お前、いったいソレにいくらかかるんだよ」と声を震わせながらエルウッドさん。


「私のお金を私が使うのになんであんたの意見を聞かなくちゃならないのよ。なんか文句あんの!?」と何かを言われる前にすでにケンカ腰の私。


「べ……別に、文句っていうわけじゃ……」


「そもそも、あんたがもっと自分で荷物運んでくれたらこういうことになってないの!それ、分かってんの!?」


「えっ、いや、あの、その……」


 私はこのパーティーに加わり、モンスターと戦いながら分かったことがいくつかある。


 そのうちの最も大切なものの一つが、どんな戦いにおいても、「やられる前にやれ!!」だ。


 戦闘態勢MAXの私に出鼻を挫かれてしまったエルウッドさんはゴニョゴニョゴニョと意気消沈。


 先手必勝、私の先制攻撃がうまく決まったその時、


「みなさんはじめまして、ぼくの名前は『デポ吉』です。みなさんよろしくおねがいします」と、『デポ吉くん』の自己紹介が秘密基地の重苦しい雰囲気の中、むなしく響き渡っていった。

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