第39話 デポ吉君 登場!! その3
すると、あたりには、『AI搭載』やら『Bluetooth内蔵』やら『スマホ連動』やら、台車にはそぐわないような煽り文句のポップがあちこちに張り付けてある。
一体どういうことなのでしょう。
そして、ひと際おっきくそれらのポップのど真ん中には、『ついに誕生、『グランド デポ』と台車業界シェアNO1の大東亜台車株式会社のコラボ商品、お荷物運搬ロボ、その名も「デポ吉くん」』とでかでかとポスターが貼ってあったのです。
『デポ吉くん!?』ってか、台車業界っていう括りあったんですね。初耳です。
するとその横には、取っ手の中央にメインモニターがあり、何やら綺麗な青色のLEDをピコピコ光らせた台車が一台……これが『デポ吉くん』?
私とベイルさんがその『デポ吉くん』とやらをキョロキョロ眺めていたら、商品説明のお姉さんがいそいそとやって来た。
「いらっしゃいませ、もしよろしかったら、お試しになりませんか?」と。
実は私、こういうセールスマン的な人達って苦手なのですよ。なに売りつけられるのか分からないし。それに、この前もウォーターサーバー売りつけられたばっかしだし……
すると臆することなく、「おう姉ちゃん、よかったら、この台車の説明してくんないかな?」と豪胆なベイルさん。うーん、肝が据わってるぅ!
「はい、勿論ですよ。お客様」とニッコリ笑いながらお姉さんは言うと、流暢なセールストークでこの『デポ吉くん』の商品説明を始めたのだ。
まあ、簡単に言うとだね、スマホ連動で自分の後を勝手について来る台車なんだってさ……なんですってー!!!
「勝手にですか?」と私。
「はい、専用のアプリを入れたスマートフォンを持っているとBluetoothでつながってその後を自動的について来るのですよ」とお姉さん。
「マ……マジですかー!!」
すご、世界はついにここまで進歩してたのですね。もう、ノコギリとトンカチで台車作っている場合じゃない……と思ったら、
「オプションのフックを取り付けると、連結して通常の台車もこの『デポ吉くん』が引っ張ってくれるんですよ」とお姉さん。ほほほーう、既存の台車も無駄にしないその心意気、気に入った!!
そのお姉さんの横で「スマホ!」、「アプリ!?」、「ぶるーつーす!?!?」と頭の上にいっぱいはてなを浮かべて固まっているベイルさん。すいません、後でゆっくりと説明しますからね。
すると、「じゃあ、試しに、このアプリの入ったスマートフォンで試してみてください」と。
はい、是非とも試させていただきます。
私はそのアプリ入ったスマホを持ってテクテクと歩くと、無音でスルスルとついて来る『デポ吉くん』。振り返ると、取っ手の所についているメインモニターがニッコリ笑っている。いやーん、かわいいー!!
四角いモニターのクセしやがって、真っ赤なほっぺがかわいいじゃねーかよ、ちくしょーめー!!
二、三歩進んで、ピタッと止まる。四、五歩進んで、ピタッと止まる。そのたんびにニッコリ笑って私の動きを待っている『デポ吉くん」
やーん、可愛すぎます『デポ吉くん』
「ちなみに、『デポ吉くん』には連動モードもあるんですよ」とお姉さん。
なっ、なんですか、その連動モードって!?!?
すると、そのお姉さんは私に貸してくれたスマホをポチポチポチ……するとなんということでしょう、柱の陰からもう一台の『デポ吉くん』がやって来たではないですか!!
「おおおおおー、すっげーなーコレ」とさすがにベイルさんも驚いている。
そして、二、三歩進んで止まると、ピタッ!ピタッ!、四、五歩進んで止まると、ピタッ!ピタッ!
ちくしょう、かわいいなー、こんちくしょーめー!!
「よろしかったら、このコーナーの周りとか歩いてみたらいかがですか?」とお姉さん。
「はい、よろこんで」
私はすぐさま台車コーナーの周りを歩いて回る。すると私の後ろをカルガモの子供みたいにぴったりついて来る『デポ吉くん』1号、2号。ああ、エルウッドさんよりも全然使える。この子達!!
あの日のエルウッドの事を思い出すと、はらわたが煮えくり返ってくるが、『デポ吉くん』たちのキュートなスマイルを見たらきれいさっぱり忘れられる。
すると、「何かお荷物持ちましょうか?」と話しかけて来る『デポ吉くん』。
おおおおおおおー、これはもう、台車ではない……ロボットだ。いや、ロボットなんて呼び方、この『デポ吉くん』に失礼だ。これは私の大切な子!!あの腐れエルウッドがいまだかつて私に一度も言ったことの無い言葉を、初めて会ったその日に『デポ吉くん』は私に言ってくれたのだ!!
「何かお荷物持ちましょうか?」と!!!
私はすぐさま特設コーナーに早足で戻っていくと、『デポ吉くん』のパンプレットをパシッと取って、「姉ちゃん、この『デポ吉くん』、とりあえず一台見繕ってくれやー!!」と気が付いたら叫んでいた。
その間も私の後を必死に追いかけて来る『デポ吉くん』1号、2号。
「おいおいおいおい、サファイヤちゃん、これ一体いくらすんのか知ってるのか!!」と私のあまりの即決っぷりに驚いているベイルさん。
「知らない、いくらするのかなんて。知らない!!でも、もう、この子は私の大切な子!!」
すると、お姉さんはすまなそうな顔をして「すいません、この『デポ吉くん』は実は売り物ではないのですよ」……と。
「はぁぁぁぁ!!!どういうことですか!!だったらなんで、こんな特設コーナーなんか作って展示してあるのですか!!」と。
あやうく、私は頭のてっぺんから「ぷっしゅうぅぅぅ」と湯気が出るところでした。
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