第30話 チーム力底上げ週間 その4
そう、私が買ってきたのは電動丸ノコギリの替刃、いわゆる「チップソー」というやつでーっす。
ほら、フリスビーの形で回りがノコギリの刃のヤバい奴。(良い子は絶対に投げたりしちゃダメだぞ!!)
「じゃあ、ナジームさん、よろしくお願いします」
私はそう言うと、10枚セットの「チップソー」の替刃を渡す。
「では、あそこの木の枝を目掛けて投げますね」
ナジームさんはそう言うと、私が渡した「チップソー」に何やらギューッと念を込めている。
するとのナジームさんのマナのお陰か、替刃がなんとなく青白く光って見える。
そして、一気にチップソーの替刃を投げると、ものの見事に全弾的中。
あっという間に枝がすっかり切り落とされちゃいました。
さらに、まだ一枚残していたのか「ハァァァー!!」と思いっきし気合を入れて投げた最後の一枚が「ギュウン!!」という甲高い金属音のような音を立てると……なんと、直径20センチはあろうかという木の幹を真っ二つにしちゃいました。怖っ!!!
直後、ドスーンと上半分の木の幹が地面に落っこちた。
「おいおいおいおい、これももしかしてベイル並みにヤッバい奴じゃねーのかよ」とノエルさん。
「いや、下手したら俺以上だろ。なんてったって、長々距離から投げたって威力は関係ねーんだからさ」とベイルさん。
「そこまで褒められると、ちょっと、これは試しずらいですね」と恐縮してナジームさん。
「んっ?なんかするのかよ?」とこういうことには妙に察しの良いエルウッドさん。
「はい、師匠の下で修業していた時には、木の円盤では成功したのですが、鋼の円盤で成功したことは一度もないのですけど……」とナジームさん。
「まあ、いいや、やって見せてみろよ」とエルウッドさん。
すると、「ハァァ!!!」と10枚の「チップソー」全てを大きく上空に放り投げると……
「おいおいおいおい」とベイルさん。
「マジかよ、おっかねーなー」とノエルさん。
「出来るのか?」とエルウッドさん。
「……多分」とナジームさん。
なんと、ナジームさんが投げた「チップソー」10枚全てが的である若木(わかぎ)の上空で回転しながらゆっくりと旋回しているのだ。
そして、「ハァァー!」とナジームさんが腕を振り下ろすと、空中に停止していた「チップソー」が次々と先程切り倒した隣の若木目掛けて襲い掛かる。
ギュン、ギュン、ギュンと時間差で若木の枝を切り落とす「チップソー」。
あわれ、若木さんはあっという間に丸裸。
「えっぐ、これエグイって」と顔を青ざめながらノエルさん。
「ははははは、これだったら、今度から俺がカードで遊んでていいかな?」とベイルさん。
「思ったよりも、やるじゃねーか」とエルウッドさん。
そして、「フンッ!」と最後に気合を込めた1枚が、また先程の「チップソー」と同じように丸裸の若木を真っ二つに切り倒した。
思った以上の手応えに、自分の両手を見つめてニヤッ笑うナジームさん。
その時、初めて、私はナジームさんを見て怖いと思った。
「じゃあ、明日っからナジームも戦闘の時にフォーメーションに加わるんだな?」とベイルさん。
「はい、そのつもりですけど……」とまだなんか言い足りなさそうなナジームさん。
「おいおい、ナジーム、これだけ出来てまだ自信ねーのかよ。十分だぞ、これだけの戦闘能力あればフロア8だって問題なしだぜ」とエルウッドさん。
「いや、そうじゃなくって、まだ見てもらいたいものが」
「「「まだー!?!?」」」
「はい、実は今見せた『チップソー』以外にももう一つ見てもらいたいものがあるんですよ」と私。
「「「ほほーう」」」と興味津々のみなさん。
というわけで、私はもう一回、倉庫に戻って段ボールと自転車に使う空気入れを持ってきた。
「おいおいおい、なんなんだよ、サファイヤちゃん。自転車のパンクの修理でもするのか?」
「そんなのしませんよ。ってか、どなたか自転車パンクした人いるんですか?いるんなら今度『サイクルデポ』に持って行きますよ」
「いや、大丈夫」と皆さん。
私は段ボールから荷物を取り出して、テキパキと組み立てる。
「すいませーん、ナジームさんもちょっと手伝ってー」
と、思ったよりもあっさりと組みあがった。
「すいません、エルウッドさんお水持ってきてくれますか?」
「ほいきた、まかせとけ!!」とエルウッドさん。
「あっ、いや、ちょっと待ってください」
「はい?なんだよ?」とパタッと足を止めて振り返るエルウッドさん。
「その、ウォーターサーバーの飲み水じゃなくて、掃除のときに使う水瓶(みずがめ)に貯めてある方の水です」
「なんだよー、そっちの方かよー」とせっかくのウォーターサーバーの出番が無くてちょっとガッカリのエルウッドさん。
それでもすぐにペットボトルに水を汲んで持ってきてくれた。
「ありがとうございますー」
私はそう言ってエルウッドさんから水の入ったペットボトルを受け取ると、ペットボトルロケットにお水をこぼさないように入れる。
「んっ?んっ?んっ?」さっきから何やってんだお前らとエルウッドさん。
「「うんうんうん」」とベイルさんとノエルさんも。
ここはあれこれ説明するよりも、とりあえず、見てもらった方が話が早い。
「じゃあ、サファイヤさん、空気を入れるのは私がやります」とナジームさん。
「じゃあ、私が土台を押さえておきますね」と。
そして、土台に水を入れたペットボトルをセットすると、シュコシュコシュコと空気を入れ始まるナジームさん。
「そろそろですかね?」とエルウッドさん。
「そうですね、いま5気圧くらいですから……はいありがとうございました」
マニュアルには5気圧までと書いてあったが、後でいろいろ確かめてみようと思う。
「では、行きますよ」と私。
「はい」とナジームさん。
「おいおいおいおい、何する気だよ、お前ら」とエルウッドさん。
「驚かないでくださいよね」とニヤリと私。
「腰を抜かさないでくださいよね」とニヤリとナジームさん。
「なーんか、おっかねーなー」とノエルさん。
そして、私は発射トリガーを握ると、「じゃあ、ナジームさん一緒にカウントダウンをしましょう」
「はい、いいですよ」とナジームさん。
「カウンドダウン!5(5)……4(4)……3(3)……2(1)……1(1)……発射(発射)ー!!」」
プシュン!!!
すると、ペットボトルロケットは水しぶきを飛ばしながら大空に虹を描いて飛んで行った。
「なっ、なんじゃい、ありゃー!!」と空いた口の塞がらないベイルさん。
「なになになになになに?」と予想外のことに対応できないでいるエルウッドさん。
「ありゃ、いったい、どこまで飛んでってんだよ」とノエルさん。
「大体300mくらいですかねー」と私。
「それでもまだまだ、飛距離は伸びるんですよ」とナジームさん。
なんか、ペットボトルロケットの作り方を『グランド デポ』のパソコンで調べたついでに、ペットボトルロケットの飛距離の世界記録も調べたら、なんと今現在、830mなんですって、スゴーイ!!
「まあ、これだけ飛べばダンジョンのフロア内なら端から端まで飛ばせますもんね」と私。
「「「あっ!!」」」と声を上げるみなさん。
「ところで、ナジームさん、ペットボトルロケットも飛ばした後にコントロールってできますか?」と私。
「はい、今試しにやってみましたけれど、大体着地地点はコントロール出来ましたよ」とナジームさん。「まあ、精度を上げるとなれば1日2日あれば問題ないです」
「うーん、でも、このロケットにもちょっと入れたいものがあるから、まだちょっと調整が必要ですかねー」と私。
「はい?入れたいものってなんですか?」とナジームさん。
「そりゃ、決まってるじゃないですか、ガソリンとか火薬ですよ」
「……………………」
あれ、途端に口を噤んてしまったナジームさん、一体どうしちゃったのかなー。
と、ついでに振り返ってみんなの顔を見てみると、なぜか私のことをドン引きした様子で見つめている。
あれれー、もしかして、この世界ってまだ「黒色火薬」って発見されてなかったっけ?
だとしたら、明日またグランドデポに行って材料を手に入れなければ。
えーっと、硫黄ってこっちで買うのとあっちで買うのどっち安いんだっけ、あとでナジームさんに聞かなくちゃ。
ああ、いそがし、いそがし。
やることがまだまだ沢山ある。
頑張んなきゃ、サファイヤ、ファイト!!
私はテキパキと2本目のペットボトルロケットの準備をしていると、後ろの方で、
「ヤッバ、ナジームさんのスキル。下手したら俺達いらなくなっちゃうんじゃないの?」とノエルさん。
すると……「馬鹿っ、ヤバいのはそっちじゃねーだろ」と声を潜めてエルウッドさん。
「そっちじゃないって?」
「ホントにやべーのは次から次へとこういうエゲツねえこと考えつくあの女の頭ん中だよ」と。
「………………」
大方私に気を使って小声で話してくれてるのかもしれませんが、お生憎様。全部筒抜けですわよ。エルウッドさん。
後でちょっと二人っきりでお話でもしませんこと?(ウフッ
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