第29話 チーム力底上げ週間 その3

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 …………二時間後、


「ただいまー」と私。


「おう、お帰り、サファイヤちゃん、また、ずいぶんと大荷物だな」とナジームさん。


「なになに、今度は何買ってきたんだよ」とノエルさん。


「ところでお昼ご飯も買ってきてくれたって、ホント?」と妙に鼻の良いエルウッドさん。


「はい、お昼ご飯は向こうで買ってきましたよ。まずはここで食べてからにしましょう。エルウッドさん、お茶を入れてくれませんか?」


「がってん承知だぜー」とウォーターサーバーのお湯の蛇口からみんなのマグカップにお湯をコポコポと注ぐエルウッドさん。……ゴポンッ。


 例のウォーターサーバーを買ってからというもの、最近のお茶係はエルウッドさんがやってくれている。


 まあ、みんなのマグカップにお湯を注いでティーパックを入れるだけなんだけれどね……


 そう考えれば、ウォーターサーバーを契約したことも……そう悪い事ばかりでもあるまい。それに、ダンジョンに行くときにはいつも水筒にこの水を入れているし……


 というわけで、みんなのマグカップに緑茶のティーパックを入れて、みんなで、お寿司のパーティーセットを食べるのだー!!


 ジャーン!!という声とともに、『グランド デポ 東京幕張店』特製のデポ寿司セットの『華』、5人前でお値段4,980円!!


 最初お寿司を見た時には「えぇぇぇぇーお前の国では、魚を生で食べるのかよ」とエルウッドさんもベイルさんもノエルさんもドン引きしていたけど(ナジームさんだけは、そう言う食生活のある国があることを知っていたらしい)、一度本マグロの中トロを食べた途端に、価値観が180度ひっくり返りました。


 最近ではこっちの市場で売ってる魚も「なーなー、サファイヤー、これも生でくえっかなー」と質問してくる始末。


「ダメですっ、その魚は寄生虫がいるから生で食べたらお腹壊すどころの話じゃないですよ!!」とたびたび注意する始末。


 というわけで、うっかり、うちのパーティーみんなをお寿司の虜にしてしまった私。ああ、これでまた、口座残高が減ってしまう。まあ、私だけ向こうで食べるってのもアレだし……


 すると、「あー、ノエル、その中トロ、俺んだぞー!!」とエルウッドさん。


「あーごめんごめん、エルウッド、じゃあ代わりに俺のいくらあげるよ」とノエルさん。


「むむむむー……いくらだったらヨシッ!!」となぜかいくらに指さし確認をするエルウッドさん。


 そんな感じで和気あいあいとお昼を食べる私達。


 60貫以上あったお寿司があっという間になくなってしまうと、名残惜しそうにプラスチックの寿司桶に張り付いたご飯粒を指でつまむエルウッドさん。うーん、今度っからもう一回りおっきな、『夢』にしたほうがいいかなー。その傍らでまだ食べたり無いと、デニスさんはカップのうどんにお湯を入れていた。


 いつか私のMPが250を超えて、みんなで一緒に『グランド デポ』に行けるようになったら、『グランド デポ』にある回転すしの『デポろー』に連れて行ってあげたいなーなんて、その時私は思ったのだ。




「じゃあ、準備はいいですかー?」とナジームさん。


「オッケーでっす」と私。


 お昼ご飯を食べた後、私達は秘密基地の裏手にある空き地で、フリスビーをすることとなった。


「ハイッ!!」とナジームさんが声を上げて投げると……なんという事でしょう、30m以上離れているというのに、私の掌のど真ん中にストライク。すっごーい!!


「じゃあ、いきますよー、テイッ!!」と私が思いっきり飛ばしても、フリスビーは変なカーブが掛かり、ナジームさんから離れてしまう。


「ヘイヘイヘイー サファイヤ、ちゃんと投げろよー」とエルウッドさんがヤジを飛ばす。うっさいわねー、あんたに向かって投げるぞコラッ!


 しかし、いくら、投げても、ナジームさんはドストライク、それに比べて私の投げるフリスビーはあっちにぴゅーん、こっちにぴゅーんって、あれれ、私こんなにフリスビー下手だったっけ?


 私は思わず真剣に悩んでしまうと、「まぁ、サファイヤ、こういうのにはコツがあってさ」とノエルさんが私からフリスビーを受け取ると、「ほい、ナジーム」と言って、フリスビーを投げた。


 すると、ノエルさんの投げたフリスビーも寸分違わず、ナジームさんの胸元にストライク。うっまーい。


 私の言葉に気をよくしたのか、それからノエルさんとナジームさんは距離をどんどん広げていき、おまけにスピードもどんどんと上げていった。


 いやー、ここまで速いと、もうちょっと……私はパスです。


 すると、エルウッドさんもやって来て、「おーっし、じゃあ、俺も混ぜろよ」と言ったとたん、パシンッと盛大にフリスビーを弾き「痛ってー」と指を押さえて蹲(うずくま)った。


 すぐさま、デニスさんが、「いい格好したいからって、できないことを無理しちゃだめだぜ」と優しくフォロー(?)。


 若干ご機嫌斜めになりながらも、さっさとあきらめたエルウッドさんは私達3人と二人の曲芸まがいのフリスビーを眺めるのでした。


 しばらくしてから「やぁ、久しぶりに楽しい汗かけましたよ」とナジームさん。


「思ったよりも腕が落ちてねーじゃねーかよ」とノエルさん。


「すっごーい」と私は無条件での大喝采。


「別にあんなのすごかねーわ」とすっかりへそを曲げたエルウッドさん。そう言うとこやぞ、自分、いまいちリーダーとしての資質に欠けてるところって……


 私はエルウッドさんを無視して「すごいですねー、なんかコツでもあるんですか?」と二人に聞いてみる……と、気まずそうにポリポリとぽっぺたをかくノエルさんにナジームさん。えーっと、えっとー……


「マナだよ!」とすっかり私から無視されてほっぺを膨らましているエルウッドさん。


「マナ……ですか?」


「ああ、そうだよ、投擲系のスキルを持っている人間には、投げたものをある程度コントロールできるマナが備わってんだよ」


「そうなの……ですか?」と私。


 すると、気まずそうに「ええ」とナジームさん。「おうよ」とノエルさん。


「でなかったら、ノエルだって、百発百中で当てらんねーだろ、モンスターに」とエルウッドさん。


 たしかに!今まで、ノエルさんが弓矢を外したところを見たこと無い。


「つまり、こういう事ですか。弓を打ったり、フリスビーを投げたりした時に、当たれーとか、あっち行けーとか思うとその通りに行くんですか?」


「ピンポーン!!」とノエルさん。


「まあ、大体そんな感じですかね」とナジームさん。


「すっごーい!!」と目をキラキラさせて私。「えっ、えっ、えっ、なんですか、それ、めちゃくちゃすごいスキルじゃないですか!?」と私。


「いやー」とノエルさん、「そんなにすごくはー」とナジームさん。


 すると、まあ、「こういうこったよな」と言って、ベイルさんが倉庫から手投げ斧を持ってくると「デイッ!!」と言って、斧を投げて、三十メートル先の木の幹にドストライク。あっ、そういや、ベイルさんも斧外したこと見たこと無いや。


 すると、ニマニマと笑いながら「ほほーう、じゃあ、このスキル持ってないのって私とエルウッドさんだけなんですね」と無い者同士で傷をなめ合ってあげようかと思ったら……「しっ、しっ、失礼なことを言うなー!!」と激おこぷんぷん丸のエルウッドさん。


「はへっ?」


「俺の魔法は百発百中だろうがよぉぉぉー!!」と頭からプンプンと湯気を上げながらエルウッドさん。


「えーっとそうでしたっけ?」


「オメーの投げるガスボンベに当てるの、外したの見た事あんのかよー!!!」と大絶叫。わかりましたよ、そんなにアピールしなくても大丈夫ですよ。メンドくさいなー。


「そうなんですよ、私とノエルとベイルは物理的に何かを当てる能力はピカ一ですが、エルウッドみたいに魔法を百発百中で発動させたり当てたりするスキルはそんなに高くはありません」


 えっ?ってことは、このあんぽんたんはもしかして有能な人なの?


 と、私はエルウッドさんのことをマジマジと見る。


「お前もしかして、俺の事相当下に見てねーか?」


 ……いや、もしかしなくてもそうですが、とてもそんなことは言えるわけもなく、「そんなことはないですよー」と社交辞令のように言った。


「お前さー、そういうことは、せめて、目を見てから言えよ」とエルウッドさん。


「…………ハイ」


「ってか、お前だってそのスキル持ってんじゃねーかよ」


「…………はえ?」


「はえ……じゃねーよ、お前、戦闘中にガスボンベ投げる時、ちゃんとモンスターの所にしっかり投げてるだろうが」とエルウッドさん。


「…………あっ」


「それに、仲間に薬草投げたりポーション投げたりしたの、ミスったことあったかお前?」


「……いや、ないっす」


「そういうことだよ、もっと集中してフリスビー投げれば、お前だってできないことは無いだろ」


「……マジっすか?」


「じゃあ、ちょっと練習してみますか?」とナジームさん。


「はいはい」と私。


 すると、いつものように、みんなの手に取りやすく薬草をなげるように、モンスターに向かってガスボンベを投げるように、フリスビーをよく見て、ピュッと投げてみる……と、やったー、ナジームさんにストラーイク!!


 ってことはアレか?できないのはエルウッドさんだけか。


「あっ、なんか言ったか!!」エルウッドさんがすっげーおっかねー顔してこっちを見た。


 ……一旦休憩、……ゴポンッ。


 ウォーターサーバーの水をみんなで飲んで、ひと段落してから、「じゃあ、ウォーミングアップはこの辺で終わりですね」と私。


「おう、オメーの言う、ナジームの新しい武器って奴を見せてみろよ」とエルウッドさん。


「はいはいはい、お待たせしましたー」私はそう言って、『グランド デポ』で買ってきた例のものをみんなに見せる。


「こりゃまた……」とベイルさん。


「オメーのチェーンソーとどっこどっこい位にえげつないなー」とエルウッドさん。


「ちなみに、これ、いくらすんの?」とノエルさん。


「はい、10枚で3940円……えーっとだいたい40マニーでーっす」と私。


「やっす!!」とエルウッドさん。


「まじかよ!!」ベイルさん。


「やべーなーオイ」とノエルさん。


 では、私が一体何を買ってきたかというと、もしかして大体の方は想像つきましたか?

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