第15話 異世界からのプレゼント その2

「えーっと、ノエルさんへのお土産は……」私はそう言いながら、またゴソゴソと段ボールの中を物色する。


 えーっと、えーっと、奥の方に紛れ込んじゃったかなー。あっ、あったあった。手前のガスボンベの箱の間に入り込んで挟まっていたのだ。私はその箱と箱の間に挟まっていた2本の棒をノエルさんに差し出した。


 ノエルさんの目の前に差し出された2本の棒を見てエルウッドさんが「なんだよ、コレ、ベイルに比べてまた、ずいぶんとちゃっちいお土産だなーオイ」と茶々を入れる。


 が、ノエルさんは私の差し出した2本の棒をまじまじと見つめている。


 その様子に異変を感じたのか、エルウッドさんもベイルさんもノエルさんの反応を伺っている。


 すると……「なんなんだよ、これ……サファイヤちゃん」と幾分声を震わせながらノエルさん。


「銀色のパイプは私達の世界ではジェラルミン呼ばれる素材のパイプで、黒い色のパイプはカーボンと呼ばれる新素材のパイプです。どうですか、コレ、矢の胴体の素材としては……」


「……すげえよ、これ」そう言ってゴクリと生唾を飲み込むノエルさん。そして、「これって、ここにあるのだけなのか?」と。


「あー、ゴメンなさい、今回は見本で1本づつしか買いませんでしたけれど、気に入っていただけたら、明日まとめて買ってきますよ。でも、単位が100本単位なんですよねーバラ売り以外は……」


「マッ、マジか!!、これ、100本単位で手に入るのか!?!?」と驚いた様子でノエルさん。


「んっ、なになに、ノエル」とノエルさんの反応に驚いた様子のエルウッドさん。


「これが、そんなにすごいものなのか?」と余ったもう一本の矢をしげしげと見るベイルさん。


 すると、「これは、なかなかすごいですね」とナジームさんだけはノエルさんと一緒にこのパイプの凄さを分かってくれたみたいだ。


「ところで、この黒い棒の素材は一体なんなんだよ」と指でコンコンと叩きながらノエルさん。


「はい、これは私達の世界ではカーボンファーバーと呼ばれる素材で、炭を高温高圧で固めて出来た結晶を糸にして編み込んで作られたものです」と。


「サファイヤちゃん」


「はい?」


「これ、100本、お願いできるか?」ノエルさんはそう言いながらカーボンパイプから目を離さない。


「分かりました。長さはどうしますか?」


「出来たらもう少し……えーっと、あと3センチ短く出来るか?」


「もちろんですけど……一旦、矢じりを付けて試打してみてはいかがですか?」


「あるのか?矢じりも?」


「うーん、気に入っていただけるかどうか」


 私はそう言って何種類かの鉄のアンカーとリベットピンを差し出した。


「こ……こんなにあんのか」


「はい、すいません。私あんまし弓矢の事は詳しくないので、とりあえず、それっぽいものを用意しました」


「なっ、なんなんだよ、さっきから、話がどんどん進みやがって」と置いてきぼりを食ってちょっとご機嫌斜めのエルウッドさん。


「ああ、すまないなエルウッド。勝手に話し込んじまって。まあ、いいか、エルウッド、お前、ちょっとこれとこれ持ち比べてみろよ」とそう言って、ノエルさんは自分の荷物から矢を一本とりだし、矢じりを外してエルウッドさんに渡した。


 ノエルさんから渡された2本の矢を持ち比べるエルウッドさん「………軽っ!!なんじゃい、こりゃ」と驚いた様子でカーボンのパイプを振り回すエルウッドさん。


「でっ、でも、アレだろ、これだけ軽かったら、結構簡単に折れるんじゃないのか?」とカーボンをしならせるエルウッドさん。


「えーっと、強度はそこの竹の矢よりはあると思いますよ」と私。


「マジか!!」と改めて驚いた様子のエルウッドさん。


「まあ、ベイルさんに掛かればあっさり折れちゃうと思いますけど、でも、矢にそんなに強度って必要ないですよね?」


「もちろん、もちろん」とノエルさん。そして「いいか、エルウッド、この矢の胴体を、このカーボンとやらに交換してうまくいけば……射程は1.5倍……いや、下手したら2倍は伸びるかもしれないぞ」と。


「……マジか」そういって言葉を失うエルウッドさん。


 それがどれくらい有利になるかは、ここ3カ月の間、皆さんのパーティーで戦ってきた私には理解できた。


 つまり、今、戦っている場所よりも10m下がっても、これまでと同じ戦闘能力のまま戦うことが可能になるのだ。そしてこの10mが生死を分けることがここでの戦いではままあることなのだ。


「とりあえず、あまり軽すぎても威力が落ちるかもしれないので、ジェラルミンとカーボン、試し打ちしてみてください」と私。


「おっ、おう」


「一応、明日の午後にもう一度、『グランド デポ』に行く予定ですから」


「分かった明日の午後までには返答するよ」と改めて今度はジェラルミンのパイプの感触を確かめるノエルさん。


「ってか、サファイヤが持ってきた矢の素材ってそんなにすごいのかー」と感心したようにエルウッドさん。


 すると、「確かに素材もすごいけれど、それよりも、この矢の胴体を100本単位で手に入れられるってのがスゲーんだよ!!」とノエルさん。


「そ……そんなもんか?」


「なあ、エルウッド、俺が1本矢を作るのにどれくらい時間がかかるか分かるか?」とノエルさん。


「えーっと……1時間くらい?」


「いや、調整まで含めると、1本半日はかかる」


「えええー、そんなにか?」


「ああ、もっとも俺にはそんなに時間は無いから、この町の弓矢職人から1本80マニーで買ってるんだよ」と。


「えええー、お前の矢、一本80マニーもすんのかよ!!」


「でも、命には代えられないだろ」


「……たしかに」


「ちなみに、サファイヤちゃん、コレ1本、いくらすんの?」


「えーっと、ジェラルミンの方が1本1マニーで、カーボンはちょっとお高くなって1本1.5マニーです」


「……とりあえず、100本ずつ頼むわ」


「了解しました」


 ノエルさん、注文入りましたー。


「あと、それから、ノエルさん」


「えっ、もしかしてまだあんのかよ」


「はい、これ」私はそう言ってピアノ線を渡した。


「なっ、なんだこれは?」と最初に反応したのはやはりエルウッドさん。どうやら他の人達のお土産に興味津々らしい。


 もっとも、私は弓矢について疎いので、物は試しでと言った感じで買ってきたのだが……


「これ、弓の弦の代わりに使ってみろってことだよな」のノエルさん。


「はい」と私はこっくりと頷く。


「あああー、なるほど。ちなみにこれってのは金属の糸か?」とエルウッドさん。


「はい、高純度の鉄材を糸状にしてより合わせたものです」


「すっげーなー、コレ。サファイヤちゃんのいた世界ってどんだけ俺達に比べて文明が発達してんだよ」とため息をつきながらノエルさん。


「でも、私も適当に買ってきたばかりだから、ちゃんと調整して今使っている弓に合うかどうか確認してから使ってみてください」


「おう、わかった」


「ちなみに今使っている弓の弦ってなんでできているんだ」とエルウッドさん。


「ああ、今俺が使っているのは麻ひもをより合わせて膠(ニカワ)で固めたものなんだ」


「はーん……なんか、デリケートそうだな、それ」


「ああ、雨が降ったり湿気が多い日だと調整が狂ってなー」と困り顔のノエルさん。


 なるほど、弓の弦というものは、強度よりも湿気やコンディションの方が重要視されるか……私もちょっと勉強しなくてはと思った。


 さて、次はナジームさんだ。

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