第10話 グッドルーザー再び

「ってことは、アレか!!サファイヤあの居なくなっていた間に、前世の世界に戻ってたってことなのか!!」と目を真ん丸にしてエルウッドさん。


 いや、あの、まだ、あちらの世界で死んだって決まったわけじゃないんで前世って決めつけないで欲しいんですけど……


「いやー、とりあえず、こことは別の世界に行ってたことは確かですね」と念願の骨付きもも肉を食べながら私。


「はへー、そんなことがあるんだねー」とこれまた目を真ん丸にしてノエルさん。


「まあ、確かに、あんな金属でできた……『ガスボンベ?』なんてものはこの世界にはないからなー」としみじみとベイルさん。


「いや、確かに、こことは別の世界と行き来できる魔法使いがいるというのは聞いたことがありますね」とキラーンと眼鏡の奥の目を光らせてナジームさん。


 ここは、いつもの居酒屋『グッドルーザー』。


 あの後、私達は命からがら地上に戻ってくると、ベイルさんとエルウッドさんはそのまま医者に担ぎ込まれ、ナジームさんとノエルさんは『ダンジョン204高地』を管理している王立陸軍ダンジョン管理センターに書類の提出と事情を陳情しに行った。


 まぁ、フロア5が落盤したのが私達の責任でもあるかもしれないので……


 もっともナジームさんの話によると、私達パーティー一行に対し、別段責任を問われるということは無く、逆に、こんなにも早くフロア5まで進出できたことに対し驚かれてしまったとのことなのだ。


 その上、補強工事がしっかりと行き届かなくて申し訳ないと謝られてしまった。


 まあ、ともかく、生きて帰ってこれて何よりでした。


 前の世界だったら全治3か月相当の大けがをしたベイルさんは、ダンジョン管理センターの取り計らいで特級白魔導士の方に無料で治療を受けられることとなり、数時間後にはピンピンになって私達の元に帰って来た。


 なんか、お肌までツルツルになってませんか?ベイルさん。ちょっとその白魔導士さん、私にも紹介していただけません?


 私は誰に気兼ねすることもなく鳥の骨付きもも肉にかぶりつく。あらやだ、おいしー!!


 いつもは、給料分の仕事が出来なくて負い目を感じながら食事をしていたのだが、今日ばかりは別だ。なんてったって私の『グランド デポ』が無ければ、私達のパーティーは全滅してたのかもしれないんだから。


 でも、ってことは、今日は誰かが骨付きのもも肉にありつけないってことだよね。


 私はちょっと気まずそうに様子を伺っていると……「はい、追加の鳥の丸焼きお待ちしました」と私達のテーブルには3匹の鳥の丸焼きが……


 オイ、3匹注文していいんだったら、いつもしとけよ!!ここの代金、みんなできっちし割り勘なんだから!!


 今日は鶏の丸焼きと揚げたジャガイモでお腹をいっぱいにすると、いつものように私以外はお酒を飲みながらの反省会となった。でも、今日ばかりはいつものようにおどおどする必要はない。


 すると、話題の中心はやはり、私の新スキル『グランド デポ』についてだった。


 まあ、別段隠すつもりもないし、なんてったって、戦闘中に発動すると、向こうにいる時間そっくりそのままいなくなるのだから、あらかじめ事情を話していた方がいいと思ったのだ。


「ってことは、アレか、その『グランド デポ』とかいうむこうの市場に行っちゃってるってことなのか?」と人一倍興味津々のエルウッドさん。


「まあ、市場というか、とにかくとんでもなくでっかいおみせですよねー」と私。


「とんでもなくでっかいって……」とベイルさん。


「えっとー、私の居た街のお城10個分くらい」


「「「どっひゃー」」」とみなさん。


「城10個分って、一体なにうってんだよ、そこ!!」とノエルさん。


「んー……木材?」


「「「はぁ!?!?!?」」」


「木材何て、森行きゃ生えてんだろ!」とエルウッドさん。


「なんなんだ、お前の国の木はそんなにでっかいのか?」とベイルさん。


「一体何本おいてあるんだ、そこの店には」とノエルさん。


 ああー、自分がよくそこで木材買っていろいろ工作してたから思わず思ったままに言っちゃったけれどまずったなー。


「えーっと……ともかく、あらゆる大きさと種類の木材がおいてあるんですよ。しかも世界中の」


「「「世界中」」」


「はい」


 まあ、この人たちに一枚百万からする檜の一枚板といってもピンとこないだろう。


「もちろん、木材のコーナーはほんの一部なんですよ。あとは、洋服に、自転車……」


「「「自転車!!」」」


「うーん……まあ、馬車みたいなものです。こっちの世界の」


「「「……はぁ」」」


「それに、洋服屋さんに、布団やさん、家具屋さん、皮製品、あと、えーっと、えーっと、つまり、この世の全てのお店がそこの建物に入ってるんですよ」


「「「……はぁ」」」


 とりあえず、お互いの想像の範疇を大きく超えてしまい話がうまく伝わらない。それにお酒も結構飲まれているみたいだしねー。


「つまり、サファイヤさんはこれから、その『グランド デポ』ってお店で買ったアイテムを使って私達とダンジョン探索するってことでオッケーですか?」とものすごく端的に芯を食った説明で話をまとめるナジームさん。


 この人やっぱ、ホントに頭がいいわ。


「まっ、まあ、そうです」


「「「おおおおおー」」」と皆さん。


「ってことはアレだ、あのボーンと爆発する……えーっと」とエルウッドさん。


「ガスボンベですね」とナジームさん。


「おう、ガスボンベ、ガスボンベ、あれもまた準備してくれるってことか?」


「はい、勿論です」


「「「おおおおー」」」


「しかも、今度はもう少しおっきめになりますよ」


「「「おおおおおー」」」


 今日は時間が無かったからレジ横にあったガスライター用のガスボンベだったけれど、今度行くときにはもっとお値段が安くて大容量のカセットコンロのガスボンベを買って帰ればいいのだ。


 その後も私の『グランド デポ』のスキルの話に花が咲きつつ、居酒屋『グッドルーザー』の夜は更けていくのでした。

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