第7話 グランドデポ東京幕張店 その2

 走っている途中で私はすぐに気が付いた、広い、広すぎる、とにかくアホみたいな大きさだ。


 流石は東洋一と言われている売り場面積を誇る『グランド デポ 東京幕張店』。売り場を全部見ていたら1日あっても全然足りやしない。確か東京ドーム6個分の大きさとか言ってたわよね、ここがオープンした時に……


 そんなことを考えているうちにも刻々と時間だけは過ぎていく。


 あと3分少々の間に何らかの商品を手に入れて会計を済ませないと、あの地獄のような戦場に手ぶらで帰ることになってしまうのだ。


 とりあえず、何かを手に入れなければ、何かを……何かを……あっ、特売のホットケーキミックスみーっけ、とりあえずカゴに入れてこ。……って、そんな事してる場合じゃねーよ!!!


 すると……「お嬢さん、ご自宅の飲料水に何かご不満はございませんか?今ならこちらのウォーターサーバにご契約していただくと、ウォーターボトル代が1年間無料で……」


「いらねぇぇぇぇぇよ!!!」

 

 やばい、一瞬でもスキを見せるとあらゆる物欲とセールスマンが全然興味のない商品を売りつけにくる。これも東洋一の規模とうたわれた『グランド デポ 東京幕張店』のもう一つの顔だ。


 残り時間3分を切った。


 まずはレジを見つけなければ……と、隣の売り場に誰も並んでないセルフレジを見つけた。とにかく、あそこに行かねば!!もう、レジの周りで何か手に入るものなら何でもいい。もう贅沢は言わん!!


 と、その時、ちょっといい事を思いついた。


 もしもし、あのー「天からの啓示」さん、ちょっといいですか?


「はい、なんでしょうか、日渡様」


 あのー……ちなみになんですけれど、もし、会計を済ませないまま商品をあちらの世界に持ち帰ってしまった場合は……


「はい、見つけ次第、即座にアカウント停止でポイントも全て没収されます」とにべもない『天からの啓示』さん。


 背中に冷や汗がわざわざーっと流れる。


 ってか、もう時間が無いじゃないのよ。あと3分ちょっとで、あのファイヤーウルフの前に戻らなくちゃならないの。


 絶望的な感情が私の中を駆け巡る。これってもしかして、死ぬ前の走馬灯ってやつだったのですか!?


 いいや、だめだめ、サファイヤ、えーっとこちらの世界だとあかねになるのかな?とにかく、最後の最後まであきらめない。諦めたらそこで試合終了なんだからね!!


 と、そこで、視界の片隅にあるものを見つけた。


 あれはもしかして……


 私は駆け足でその棚の前に駆け寄ると、棚の上にある商品を全て手持ちのカゴの中に入れ、セルフレジで一心不乱に商品をスキャンし始める。


 残り時間あと1分30秒!!


 同じ商品でお間違いございませんか?


「ございませんよ!!」


 私はセルフレジに向かって毒を吐く。あらやだ、エルウッドさんの口癖がうつっちゃったのかしら。


 すると、数字をまとめて入力できることに気が付いた私は個数を数えて数字を打ち込む。


 ようやく全ての商品をスキャンし終えると残りは1分を切っていた。


 頼むわよブラックカードちゃん。ここで磁気異常なんてことになったら目も当てられない。


 私は鬼の速さで液晶に移った現金かカードかポイントかの支払いボタンをプッシュすると……おそるおそる、『グランド デポ ブラックカード』をセルフレジの読み取り機に通す。


 その間、1秒が1分もの長さに感じる……と、「お支払い完了しました。レシートをお取りください」とのメッセージが……オッシャー、私は思わずガッツポーズをすると、とりあえず商品を皮のバックに無理やりに詰め込み始める。……が、なかなかどうして全部入りきらない。


 まあいいか、商品をレジに忘れる分にはアカウントをBANされることはあるまい……と思ったところで、店員さんが、「よろしかったら、袋をご購入なられますか?」と。


「いいえ、そんな時間はございません」と丁寧に断りを入れて心の中で新次郎を罵倒することを忘れない。


 と、さらに、「もしよろしかったら、こちらの段ボールお使いなられますか?」となんとその有能そうな店員さんは空の段ボール箱を持ってきてくれたのだ。


 あかねチョー感激、有能な人ってこういうところがそつないよね。


 私はにっこりとあいさつしながら商品を段ボール箱に詰め始める。


 視界の片隅でカウントダウンが始まった。


 10……9……8……7……よし、全部詰め終わった。


 6……5……あとは店員さんに気付かれぬよう……4。


 3……柱の陰に身を潜めて…2。


 1………待っててね、エルウッドさん、すぐに戻るから。


 ……0、と同時に視界が再び白い光に包まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る