第6話 グランドデポ東京幕張店 その1

 ♪「ボン!ボン!ボン!ボン!」♪


 ♪「でっかいことーは素晴らしいー」♪


 ♪「でっかいことーはいい事だー」♪


 ♪「大は小を兼ねるのさー」♪


 ♪「小は大を兼ねないぞー」♪


 ♪「グランド グランド グランドー 」♪


 ♪「グランド デポ トーキョー」♪


 周りの光がゆっくりと消えていくと、心地よいバイブスが私の中を駆け巡る。


 これは『ホームセンター グランド デポ』のテーマ曲「ビック イズ ビューティフル(東京幕張バージョン)」だ!!


 って、えっ、えっ、えっ、ホームセンターって何?


 グランド デポって何なの?


 私は自問自答を繰り返す。


 けど、このバイブスが体の芯を駆け抜けた瞬間、私は全てを理解したのだ。


 そうだ、ここは、私があの世界に来る前にいた場所だ。


 私はここ、『グランド デポ 東京幕張店』に毎日のようにやって来ては、仕事のストレスを解消していたのだ。


 んっ?んっ?ンッ?


 よくわかんない、よくわかんない、今の状況が全くよくわからんのです。


 と、その時、ピロリロリーンと「天からの啓示」が下りてきた。


 おおっふ、これは、この世界でも降りてくるのですね。


 すると……「利用規約 これは初めて特殊スキル『グランド デポ』を使用した皆様にあらかじめお伝えしていることです。必要のないお客様は右下のスキップボタンをクリックしてください」


 いや、大丈夫です。説明どうぞ。


 私はなぜだか、スキップも利用規約も完璧に理解している。


「今回、サファイヤ・ローレンス様がお使いなられた特殊スキル『グランド デポ』は、通常では2時間の間に、こちらの『グランド デポ 東京幕張店』でお買い上げになった商品をそのまま、現在お住いの世界にお持ちいただけるスキルになります」


 ふんふんふんふん。


「通常では1ターンあたり(MP50使用時)2時間のお買い物時間が与えられますが、それに満たないマジックポイントをご使用した場合、50ポイント=2時間(1単位)を1/50で計算してご使用いただけます。」


 えーっと、そうすると、そうすると……私は指折り数えて必死に計算する。


「ちなみにMP1ポイントで2分24秒です」


 あっ、どうもすみません。


「つまり、今回の場合はMP3ポイント分ですので、合計で7分12秒になります」


 ……はい?


「ですから、こちらの世界に来て7分12秒後にあちらの世界に強制的に引き戻されます」


 ……ちなみにこの説明って、時間に入ってますか?


「もちろんです」


 ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!


 私は思わず、「グランド デポ東京幕張店」の正面玄関入り口で金切り声を上げる。周りのお客さんの視線が痛い痛い。


 見ると確かに視界の右上に残り時間が掲示されているって、残り5分50秒!!


 ちなみにお会計って!!


「もちろんこちらの世界の通貨をご利用ください」


 持ってませんから!!


「でも、サファイヤ・ローレンス様……もとい、こちらの世界では日渡あかね様でしたね」


 ……はい、確かに、私の名前は日渡あかねだった。


「日渡様は現在、デポポイント、38500ポイントお持ちですよ?」


 ……はいっ!?私が!?


「ええ、お持ちの『グランド デポ』のポイントカードにポイントがたまったままでございます」


 マジっすかー!!


「はい、こちらのポイントは永久不滅ポイントになりますので、使用されない限り失効されることはございません」


 あざーっす!!


 キョロキョロと周りの視線が痛いが、もうそんなことかまってられない。


「ちなみにこちらのスキル『グランド デポ』は、こちら側の世界に転生された際に『グランド デポ ブラックカード』をお持ちのお客様でなおかつ『デポ』ポイント3万ポイント以上のお客様に限り付与させていただいているスキルでございます」


 ってことは……私はそう言いながら、ガサゴソとバックから財布をまさぐり『グランド デポ ブラックカード』を取り出した。


 あちらの世界にいた時にはこのカードが何を意味してたのか全く思い出せなかったのだが、今では全てを思い出したのだ。


 単なる会員カードのクセしやがって、入会金に1万円もふんだくりやがった『グランド デポ ブラックカード』

 でも、その分ポイントは2倍で、様々な会員特典が付いている選ばれた人だけのハイソサイアティーなカードなのだ。


 無理しただけのことはあるが、その分見返りも大きかった。あかね、偉い、よくぞあんた、あの時思い切ってブラックカードを申し込んだわ。我ながら誇らしい自分!!


「そういうわけで、日渡様は、今現在、3万8千5百円までのお買い物でしたら、そちらのカードをレジにご提示していただくだけで商品をご購入できます」


「ヨッシャ!!」と思わずガッツポーズが出る私。


「ところで、日渡様」


 はい?


「残り時間5分を切られましたが、大丈夫ですか?」


 ファーッッック!!


 直後、私は、視界の右隅にあるスキップボタンを押すと、脱兎のごとく走り出し、東洋一の規模とうたわれている「グランド デポ 東京幕張店」の店内を走り抜けた。


 残り時間あと、4分42秒!! 

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