第16話 side:壮介1
(今日は何を持って行こう?)
黒い財布を握り締め、スナック菓子の並ぶ陳列棚と真剣ににらめっこする少年がいた。
暦の上では秋でも、まだまだ暑い日の続く九月の後半。
黒い半袖Tシャツに、迷彩模様の半ズボンという出で立ちで、壮介は近所のコンビニエンスストアで手土産にするお菓子を選んでいた。
中学に進学してからあっという間に半年が過ぎた。
(よし、これにしよう)
壮介は、二袋程スナック菓子を抱え込むと、レジに急いだ。
今日はこれから、風間大吾の家に遊びに行くのだ。
入学当初から、妙に気が合い、親友と言っても差し支えない友人で、部活帰りもそのまま家に上がるくらい仲が良い。
今日は部活の顧問が休みで、普段ある休日活動がない。
そこで、朝から大吾の家で遊ぶ約束をしていた。
肩掛け鞄に財布を押し込み、白いビニール袋を提げて、うきうきしながら友人宅へ急ぐ。
すっかり見慣れた道を歩きながら、壮介はふっと表情を緩める。
『わぁー! これ、美味しんだよね! ありがとう、そーすけくん』
大吾の妹である響子は、壮介が持っていくお菓子をいつも喜んでくれる。
目を輝かせてから、歯を出してにかっと笑う顔がとても可愛らしい。
その笑顔を見るたび、心がじんわりと温かくなる。
『それは俺たちが食べる菓子だぞ!』
と大吾が言うと、泣きそうになる姿も可愛い。
けれど、本当に泣き出してしまったら胸がざわつくので、すぐに割って入ることにしている。響子は現在九歳だが、少し泣き虫なところがある。兄である大吾に強く出るときも多いのだが、一方で弱い時はとことん弱い。壮介には、それがどうしてなのかわからなかった。彼はひとりっこで、兄妹のあれこれについては想像するしかないからだ。
正直なところ、壮介が菓子を持参するのは、人の家に行くときは菓子折りをという礼儀的な意味や自分が食べたいからという理由よりも、響子に喜んでほしいからというのが一番大きかった。
壮介と大吾が遊んでいると、決まって響子は後ろで見ている。
それはカードゲームであろうと、ボードゲームであろうと、テレビゲームであろうと変わらない。さすがに漫画を読んでいるときは離れていくが、基本は一緒に居ることが多い。
妹がいたらこんな感じなのかなと、背後で目をらんらんとさせる響子を見る度、くすぐったい気持ちになった。
壮介以外にも何人かいるときなどは、その人数に圧倒させられるのか、大吾がいつも以上にきつく言うからなのか、響子はあまり寄り付かない。そういうときは、響子が大丈夫かとそわそわしてしまうし、顔が見られないのが寂しくて、壮介の元気は何割かなくなる。
だが、他の友人たちが響子にちょっかいを出したりするのは気に喰わなかったので、いくらかほっとする気持ちもあった。小さいからとわざと意地悪な物言いをしたり、逆に弟妹のいる世話好きがいたりすりと、妙に優しく接したりするので、気が気ではなかった。
だから、壮介が一番望むのは、大吾と二人で遊ぶことだ。そうすれば、誰に邪魔されることなく、気兼ねなく響子に優しくすることができる。
(きょうこちゃん、喜んでくれるかなぁ)
壮介は響子の笑顔を思い描きにやつくと、知らず知らずうちに早足になった。
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