第8話 浄化の負荷

 先に戻ると足早に去ったクラウスの背を見送り、リアは膝をついた。

 思った以上に、力を使ってしまったらしい。毎日の水清めの儀でも、ここまで消耗したことなどはない。


(あの石の浄化は思った以上に負担だったんだ)


 軽い眩暈さえして、冷たい床に手をついた。


「リア‼」


 祈りの間に響き渡る声に顔を上げると、慌てたようにゲルトが駆け寄って来た。すかさず、リアの前に膝をつき、その肩に手を置くと、表情を窺う。


「何があった⁉」


「聖女の座を奪われないために、あと、小さな子供のために、ちょっと力を使いすぎちゃったみたい」


笑おうとするが、力が入らず上手く笑えない。


「とりあえず、部屋で休もう」


 一瞬躊躇いを見せたあと、けれどすぐに顔を引き締め、ゲルトはリアの膝と背中に腕を当てた。そして、軽々と持ち上げる。


「ゲルト⁉」


 すぐ目の前にゲルトの横顔がある。お姫様抱っこをされてしまったのだ。今まで一度だって、ゲルトに横抱きされたことはない。おぶわれたことは何度もあるが。


「力が入らないようだから掴まれとは言わない。じたばたしないで、大人しくしてろよ」


 いくらいつも一緒にいる、幼馴染だとはいっても、ゲルトは男だ。

 その男性に、お姫様抱っこされてしまうなど、平静でいられるはずがない。最近では、手を繋ぐことも、背負われることもなかったのに。

 

 いつの間に、ゲルトの体はこんなにがっしりと男らしくなったのだろう。

 腑抜けた体で、温かなゲルトの腕に支えられながら、リアはどこかふわふわした気持ちに浸っていた。

 

 この後に起こる事態など、全く予想できないまま——


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る