第4話 壁

「もうちょいだ。頑張れよ、暁。」


 「は、はい。」


 暁と共に走っていた風月は足を止める。


 「暁、気を付けろ。相当な手練れが2人、こっちに来てる。まともに相手するのはかなりしんどいな。」


 「俺が残りましょう。」


 暁は風月から渡された剣を構える。


 「死ぬよ。暁。」


 「俺じゃ恐らくライトってやつの首はとれません。でも時間稼ぎくらいならできます。まあ役に立てることを証明してやりますよ。」


 「生意気なやつだ。それが初陣切ったガキの台詞かよ。まあ頑張れよ。私もできるだけ急ぐ。」


 風月はライトの本陣へ向かう。


 「来たみたいだな。」


 暁は小さく汗を流す。


 「何だぁ? このガキが八雲風月か?」


 青と緑の薄汚れた目に、鎖骨あたりまで伸びた銀髪。そしてオルカのマントを羽織った男が言う。オルキヌス・オルカの1人、ディノ・スクス。


 「いや、違うな。まあ反応からしてやつの仲間といったところだな。」


 黒目で覆われており、黒い毛皮で口元を覆った無造作な黒髪の男。ディノ同様オルカのマントを羽織ったその男もオルカの1人、ブルータス。


 「てめえらなんて、風月さんが出るまでもねえってことだよ。」


 暁が剣を構える。


 「へぇ、そうかそうか。」


 ディノは一瞬にして暁の後ろに回り込む。


 「なっ!?」


 ディノは暁の顔を殴り飛ばす。


 「なあ? こいつ、ズタズタにしてやってもいいか?」


 暁の髪を掴んだディノは自身の半身ほどの大きさの鎌の刃をなめる。


 「やめろ。挑発に乗るな。」


 「いいじゃねえかよ。そんなに言うならお前1人で行けばいいだろうがよ。」


 「八雲風月とタイマンなんてごめんだな。もういい好きにしろ。」


 ブルータスはその場に座り込む。


 「よっしゃあ、ズタズタの刑だ。」


 暁はディノの鎌をギリギリで止める。


 「な、なんて、力だ。」


 暁は吹っ飛ばされる。


 「なんて非力だ。」


 ディノは再び一瞬にして暁の背後に回り込む。


 「!?」


 ディノの鎌は暁の足を切り裂く。


 「いい、とてもいい。いい表情だ。あぁ? なんだお前、コアがねえ。機械人間じゃねえのかよ。てことは、なあなあブルータス。こいつ生身の人間だ。お前ならこいつどう殺すよ?」


 「四肢切断だな。バラす手間が省ける。」


 「なんだよ、つまんねえなぁ。合理主義者は。まあ、悪くねえな。んじゃ、ギコギコの刑とするか。」


 「おい、お前ら、いつから勝った気でいるんだ?」


 暁は再び立ち上がり剣を構える。


 「ヘヘッ。なめやがってクソガキが。」


 背後に回り込むディノ、そして予めそれを予測していた暁の剣がディノの腹を切り裂く。


 「グハッ。なっ、貴様ぁ。」


 続く暁の一撃をディノは鎌で防ぐ。


 「グッ、ガキがぁ。ただで死ねると思うなよ。」


 「……。」


 暁の中には生きる目的も何もなかった。故郷を襲われ、周りの人間を虐殺されて尚、暁は笑った。自身の家族や友人の仇である機獣に対する怒りも大切な人を失った痛みもない。


 だが、それとは別にどうしようもない程に暁は怒り震え、泣いていた。そんな自分の気持ちと決別をつけるために暁は風月に着いていくことを決意した。


 「お前は、壁だ。俺が俺として歩むために、超えなければいけない大きな壁だ。俺は遠回りする気もねえし、飛び越える気もねえ。前に壁があるなら、壊すだけだ。」


 暁の剣にディノが押される。


 「な、なんだ、こいつ。生身の人間が、こんな力を、やべえ。」


 暁は鎌ごとディノの右腕を切り落とす。


 「馬鹿、な。」

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