第38話 死刑

アジトでBは相変わらずハッキングに勤しんでいた。

「今度はうまくいきますよーに」

Bがエンターキーを2度押すと、抜きの作業が順調に始まった。ホッと胸を撫で下ろすと、Aがタバコを吸いながら作業場から出てきた。

「どうだ順調か?」

「今回はヘーキみたい」

「そうか」

Aはタバコをしばらく吸っていたが、それとなくBに語りかけた。

「なぁ…Bは絞首刑と、単なる首絞めの違いを知っているか」

BはAの唐突な発言にギョッとした。

「どしたの急に?」

Aは新しいタバコに吸い替えてから多少興奮気味に畳み掛けた。

「いいか、日本の絞首刑は首に縄をかけて落下させる形式で、落下時の衝撃で第二頸椎を骨折する可能性が高いとされている。俗に言うハングマン骨折と呼ばれるもので、直接の死因と言われているんだ」

Aは続けた。

「頚椎骨折を伴う場合、苦痛を感じる余地は確かに無い。速やかに意識は絶たれ、脳から発せられていた生命維持のシグナル伝達も停止し、いずれ心臓が止まる。首吊りは窒息を伴うからもがくように苦しむ、と思われてるが全くの誤解なんだ」

「う、うん…」

BはただただAの演説を聞いているしかなかった。

「首吊りという手法は、例えば手やロープなどで首を絞めて殺める方法とは、根本的に死のメカニズムが違うんだな。ギュッと首を絞める行為については主に、気道が圧迫されて呼吸困難となり、窒息死することになる。この手法では気道と共に頸動脈も圧迫され、その結果脳への血液流入が部分的に遮断されるんだ。だけど、脳には椎骨動脈というものがあり、この血管は頚椎骨に保護されているので、手で絞めても直接圧迫される事がない。だから脳は酸素不足になることはなく活動を続け、その結果悶絶するような苦痛を味わう事になる…」

Aはまた新しくタバコを取り出して火を付けた。

Bは改めて素朴な疑問を口にした。

「何故今、そんな話を僕にするの?死刑が怖いの?」

「怖いとは思ってない。が、俺達のしてることは死刑と常に隣り合わせだってことさ。ただそれだけの事を言いたかっただけだ」


――――


「航空自衛隊全員の面談を終えました!」

男が冴島に吠えるように報告する。

「それで、怪しい人物はいた?」

「はい!面談しましたが、特段怪しい人物は見当たりませんでした!」

「そう…でも必ず1人は裏切り者がいるはずよ。念入りに探して。そう…特にヘリの操縦士よ。」

そう言って冴島は男から離れた。

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