第34話 転移

ラビットボマーが1ヶ月ぶりに動画をアップしたことを受け、対策本部では皆が浮足立ち騒いでいた。そういう訳で今日もフロアはいつにも増して熱気立っている。フロアの先頭にいる女性はマイク片手に、

「お静かに願います」

と何度も呼びかけた。しばらくしてやっと静かになったフロアの人々は、先頭にいる女性に皆視線を向けた。

「皆さんご存知の通り、ラビットボマーがまたもや動画を殴りつけてきました。これから流しますのでご視聴おねがいします」

動画を再生すると、殺風景な薄暗い部屋が写り、やがてボンヤリと2人のウサギが現れた。

「どーもーラビットボマー1号でーす」

「2号だよー」

刑事の一人が、

「どこに隠れていたんだ!?」

と野次を飛ばしつつも映像は進む。

「えーあれから1ヶ月、色々ありましたが生きてまーす」

「大変だったんだよ〜」

「でもそろそろ活動再開しようと思いまして動画を撮りましたー」

「自衛隊の方、どうぞお手柔らかに!」

「東京23区内で一番治安の悪い場所で1箇所、盛大に爆破します」

「これはもう、お祈りするしか無い!」

「1号は悪漢蛙谷を殺れただけでもう満足なんですが、何と言うか性かねぇ」

「もう病気だね」

「おいおい!というわけで9月25日20時、みんな待ってるぞ!」

「ばいば〜い!」


ここまでで映像は途切れた。途端にフロアがざわつき始める。冴島はマイクを再び取って、質問をした。

「都内で一番治安の悪い箇所はどこ?」

横にいた男がしばらくノートパソコンをいじってから言った。

「62.9%で圧倒的に千代田区でございます」

「千代田区内の有名な場所と言ったら…?」

「はい、靖国神社も皇居も千代田区でございます」

「そんなまさか…。いくらなんでもそれはないでしょう」

横にいた男がメガネを上げながら続けた。

「しかし映像で2号がお祈りする場面がありました。靖国神社を指していてもおかしくはないでしょう…」

「とにかく皇居と靖国神社だけは自衛隊を配備して防御を徹底させないといけないわね」

「他にも日本武道館、東京駅、秋葉原電気街、神田神社、日枝神社、挙げたらキリがありません!」

「それらも自衛隊を配備するのよ!以上」

冴島はマイクを置くと、早々とフロアを後にした。中にいる刑事たちもまた、首をかしげながらもその後に続くのだった。

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