第33話 沸点
県警対策本部のフロアには今日も刑事がひしめき合っていた。
フロアの先頭のデスクの椅子に座っていた女性が、マイクを取って喋り始める。
「犯人は愉快犯であるため、犯行はまた必ず行われます。もうすぐなのではないかと私の直感がうずいている次第です。我々は自衛隊と相互に連携し、何としても食い止めなければいけません。皆さん引き続き気を引き締めて参りましょう!」
――――
アジトでBがノートパソコンの前で唸っていた。いつものようにネットバンクで引き抜きのハッキングをしていたのだが、途中で跳ねられたのだ。これは実に久しぶりの事で、バレた様子もなくBは大いに首を傾げた。
「新しい暗号化がされたのかな…」
そこへ作業場から現れたくわえタバコのAが、紙をBに渡しながら、
「これも購入しといてくれ、ほしいものリストだ」
Bは思わず激昂した。
「Aは僕の事、財布かなんかとしか思ってないんじゃないの!?」
急に突拍子の無い事を言われたAは思わずギョッとした。
「そ、そんな事はないぞ。どうしたいきなり」
「じゃあAにとって僕はどういう存在なの?」
「そ、それは…と、特別な存在だと思ってるよ」
Bは畳み掛けるように叫んだ。
「特別な存在って具体的にはどういう存在なの?ねぇ」
「それは…」
Aは狼狽しきりだったが、やがて吹っ切れたように、
「好きだって言えばいいのか?ああ好きだよこれで満足か?」
Bはそれを聞いて顔がニンマリした。
「あっそ。いや充分だよそれで」
そう言ってBは再びノートパソコンに向き直した。
「変なやつ」
Aは新しいタバコに火を付け、作業場に戻っていった。
「前回よりも派手で芸術性の高い爆破法をずっと考えてる」
ご飯を2人で食べてる時にAが一人、冷静に呟いた。
「芸術性?爆破に芸術も何もあるの?」
「あるさ。生きる原動力だな」
またもや冷静にAは言った。完全に狂ってるとBは思ったが、そこが惹きつけられる魅力でもあった。
「考えがまとまったら、また動画の打ち合わせをしよう」
そう言ってAはスパゲッティーミートボールを口にするのであった。
「そう言えばCからメールがあったよ。また協力したいって」
「そうか。それはありがたいな」
Aは頷きながら口をナプキンで拭いた。
「じゃあ俺は作業部屋に戻る。Bはたくさんお金をハッキングしてくれ」
「それがA…さっきハッキングに失敗しちゃったんだ…偶然かもしれないけど」
「…何?」
「ハッキング中に暗号を新しく塗り替えたのかもしれないけど、原因はまったく不明さ」
Aは黙ってBの言う事を聞いていたが、
「しばらくハッキングは抑えたほうがいいかもしれないな、足がつくとまずい」
Aはそれだけ言って作業部屋へと戻っていった。
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