第19話 挑発

半グレ集団からの挑発動画を受けて翌日、2人は何事もなかったかのように食堂で朝食を採っていた。あれからAの口数は少ない。それに引きづられるようにBも口数は少なくなるのだった。

自分の食事を終えてから、Aは低いトーンで呟いた。

「これからBには射撃訓練の量を上げてもらう」

「無理して行かなくてもいいじゃないA!」

Aは黙って水を飲んだ。

「別に無理していかなくたって…」

Bはコーラに手をかけたが、口にはしなかった。

「この一件は裏で警察が動いていると思う。もしそうなら、片付けなくちゃいけない案件なんだ」

「全員銃持ってるんだよ?勝ち目なんて…」

「だからBには少しでも銃の使い方を覚えて欲しいと思ってる。ごっそさん」

そう言ってAは食堂を後にした。

「A…」

Bはかける言葉も見つからず、Aの後を付いていくしかなかった。


――――


「まずいですよ蛙谷さん!!」

蛙谷の右腕の男は喫茶店中に聞こえる声で怒号を上げた。

「うるさいなぁ…なにがまずいってんだ」

蛙谷は顔をしかめながら水を飲んだ。

「半グレ軍団に警察の最新情報をリークし、保管していた銃も盗んで渡すなんて行為!」

「焦るな。奴らは必ず爆破犯を殺ってくれる」

「そんな保証どこにあるんですか!飛行機に向かった刑事は冴島さん以外全員銃殺されたんですよ?」

「んん…とにかくだ、これはハイリスクだがハイリターンな賭けであってだな…」

「僕は降ります」

「何?」

「こんな狂った計画に加担したくありませんので」

右腕の男はコップをドンと置き、喫茶店を出ていった。

蛙谷はしばらく心ここにあらずといった風に空を眺めていたが、ハッとして同じく喫茶店を後にした。


――――


ガレージにある射撃場では、射撃音がしばらく鳴り止む事がなかった。昼すぎになってようやく鳴り止んだかと思えば、パタパタと射撃場からBが紙を持ってきて、

「どうだA!この精射率!」

と自慢げに見せつけた。Aは一瞥しただけでスマホに視線を戻し、

「あ、もうがんばらなくていいぞ」

とそっけなく言った。

「何だよ!頑張れって言ったり頑張らなくて良いって言ったり!」

Bは明らかに腹を立てていた。

「それが命のやりとりをこれからする男の返事なの?」

「んーああ。何とかするから気にするな」

そう言ってAはゴロンと寝転がった。

「もう知らないからね!」

Bは射撃場に裸足で戻っていった。


その後の夕食の事。

パスタをきれいに食べ終えてから、Aはハキハキとした口調で言った。

「今夜、用事があるから出かけるけど、朝までには戻るから心配するな」

「そう」

Bは射撃訓練の事をまだ根に持っていたので、返事もあっさりとしかしなかった。

言葉通りAは黒っぽい格好で外へ出ていったが、寝て目が覚める頃には帰っていた。


――――


「冴島さん!」

冴島の部下に呼びかけられて、冴島は歩きを止めた。

「何?」

「例の動画には警察側は反応するんですか?」

「んー。監視カメラを何台か付けてもらったけど、こちらからどうこうということはないわ」

「そうですか、それだけ確認したかったので。では」


――――


江東区にある辰巳埠頭、20日20時――――

半グレ達は埠頭の内部でAとBを待ち受けていた。

「全然来ねぇじゃねーか」

「怖くて逃げ出したんじゃねーかぁ?ひひ」

とたんに爆発音が轟いた。すごい音だ。

「なっ…?」

爆発は連なり、あっという間に埠頭は倒壊した。


朝のニュースで埠頭倒壊のニュースがやっていた。埠頭の中にいた10名は全員死亡との事だった。

そのテレビ中継を聞いていたAは、コーヒーカップを持ちながら、

「爆破犯なめんな」

と呟いた。コーヒーを一口すすると、

「やはり挽きたてのコナは格別だな」

と、満足げにすぐ2口目をすすった。


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