第17話 ウサギーランド
猛暑も過ぎかけた、とある8月末。あの日々が嘘だったかのような穏やかな日々が続いていた。Bは相変わらずフニャフニャしながら過ごしていたが、Aは爆破作業部屋に籠もりっきりだった。世間は都庁の一件と空港爆破の件で警察を不審がっており、何度も取り逃がしている県警も謝罪一辺倒といった具合だった。
「最高ーバニラコーク〜〜美味しいーバニラコーク〜〜〜♪」
Bが謎の歌を歌いながら瓶のバニラコークを片手に廊下を歩いていると、つけっぱなしのテレビ内でABの特番が放映されていた。少しだけ興味を持ったBは瓶に口をつけながらテレビに寄り添い見る。
「今回の連続爆破事件、その後なにか進展ありましたでしょうか」
報道陣に囲まれた警察側は、
「大きな進展はありませんが、小さい進展でしたらあります。どうか皆様辛抱強く…」
「この番組嫌い!」
Bは乱暴にリモコンを奪ってメチャクチャに番組キーを押した。すると…。
「夏のパーティはまだまだこれから!」
テレビ画面に水しぶきがほとばしる。Bの目に輝きが生まれてくる。
「ウサギーと一緒にウォータースライダー!」
Bの目は更にキラキラと輝きが増している!
「夜だって最高のパレードで気分は最高潮!ウサギーランドのサマーパーティー」
BがAの部屋に入ろうかどうか悩んでいると、Aが部屋を出てきた。手には銃を手にしている。Bは思わず両手を挙げた。
「ははは、良いだろこれ。3Dプリンターで作った銃だ。多少壊れやすい面もあるが、性能はいいぞ」
「へーえ…」
「問題は弾丸だが、そこは一つBにネットで調達してくれ頼む…」
BはAの会話を遮るように叫んだ。
「ウサギーランドに行こう!!」
「ウサ…なに?」
「ウサギーランド!知ってるでしょ大きな遊園地。行った事ある?」
「俺はいつも一人だったから、行った事はないな」
「僕もだよ!僕もずっと一人だったから行けなかった!でも2人なら楽しめるでしょ」
Aは拳銃をしまい、頭をポリポリとかいた。
「俺…ひとごみは苦手なんだよなぁ…」
Bはほっぺたを膨らませる。
「行かないなら弾丸仕入れないよ!どうするの?」
心底困ったAは悩み抜いたあげく、絞り出すような声を出した。
「わかったわかった、ついていけばいいんだろ…」
「わーい!!」
Bは跳ねて両手を挙げながら喜んだ。
「ああいう所は朝から行くんだよ!食堂にはいかずにすぐ向かおう!」
「準備していてくれ」
Aは作業場へ消えていった。
Bはノートパソコンの前に行き、カタカタと打鍵した後、エンターキーを2回押した。
「今日は300万人からお金抜いちゃうよー」
画面には大量の顧客情報が流れている。Bはそのままノートパソコンをつけっぱにしておいて、身支度に入った。
「バイクで行くのな」
Bがバイクのエンジンを付けるさまを見て、Aは呟いた。
「電車もいいけど、やっぱバイクの方が速いしね!それよりA、水着は持った?」
「いや。どうしてだ?」
「おっきなウォータースライダーがあるんだよぉ!楽しみ」
「…園内で買うわ」
「さぁ、バイクの後ろに乗って!」
BとAを乗せたバイクは、急スピードで車と車の間をくぐり抜けていった。
「危険な走行はやめろよB!」
「大丈夫だって!きゃはは」
Bは余裕とばかりに蛇行運転をしてみせた。
――――
ウサギ―ランドの入口は入場客で溢れかえっていた。
「うはあ。ここを並ぶのかぁ…」
Bが辟易としていると、Aが無表情で言った。
「並ばずに入れる方法があるが、どうだ使うか?」
Bは悩んだが、
「んー。いや!何かインチキ臭いからちゃんと並ぼう!」
「そうか」
Aはそう言って持っていた手帳をポケットにしまった。
40分は並んだだろうか。ようやく入口の門まで来た2人は元気に、
「1日パス大人2人クレカで!」
と嬉しそうに叫んだ。
「やっと入れたね!早速だけど行きたいアトラクションがあるんですけど!」
「何だ」
「戦慄!幽霊病棟!ガチでこわ〜い幽霊屋敷だよ!」
「悪いが俺はそういうの平気だから一緒に入っても面白くはないぞ」
「いいからいいから!ご―!」
幽霊屋敷の前には入場目的の人々がズラリと並んでいる。
「ほら、僕らも並ぶよ!」
「並ぶ価値があるのか?本当に」
60分ほど並んだ2人は、ようやっと2人用椅子に乗ってアトラクションを開始した。いきなり残酷な手術のシーンを見せられる。見たくなくとも椅子がそちら側に向く仕様になっている。
「ひぇ〜〜〜怖い!」
Bは思わずAの腕にしがみついた。Aは背筋を伸ばしたまま無表情だ。それはアトラクションが終わるまでずっと続いた。
「はひゃ〜〜怖かったねぇ」
「いや、別に」
「素直じゃないなぁAは。じゃ次ジェットコースター行こう!」
「もっと人が並んでるだろう。お目当てのウォータースライダーに乗ってさっさと帰ろう」
「何言ってるの?夜のライトパレードまでいるよ?さぁ行こう行こう」
Aは思わず白目を剥いた。
それから2人は90分待ちを乗り越えて、無事ジェットコースターを楽しめたのだった。ただしAの無表情は変わらなかったが。
次はいよいよウォータースライダーとなった。全長300メートルのウサギ―ランド名物の代物だ。まずは購入しておいた水着を着替える更衣室に入っていった。
「何だか寒いんだが」
今日の気温はさほど高くはなかった。それでもスライダーに並ぶ行列はものすごいものだった。Bは楽しげに、
「楽しみだね〜」
とはしゃいだ。やれやれといった様子のAは、暇しのぎのケータイもロッカーに置いておいてあるので、待つ時間がひたすら地獄だった。
70分待って、やっとスライダーの頂上までやってきた。その時である。
「ハッピーターイム!」
甲高い声がした。振り向くと、ウサギ―がポーズをとっている。そしてBを指さして、
「君は僕と一緒だよ!」
と言って、2人合体しながらウォータースライダーを滑り進んだ。
「わー最高!」
「ヒャッハー!」
ワンテンポ遅れてAがスライダーに滑り込んだ。相変わらず無表情である。うねうねとうねるスライダーを通って、最後は勢い良くバシャーンとプールに投げ出された。
「ウサギ―ありがとう!」
「また遊ぼうね!」
ウサギ―は早々とプールを出てどこかへ行ってしまったが、とても良い思い出ができた。遅れてAがプールに飛び込んできた。
「ウサギ―と一緒に滑ったよ!」
「そりゃよかったな」
そういうと、Aはいそいそとプールから出て、更衣室へと向かった。
それから2人はいくつかのアトラクションに並んだ。Aはケータイのバッテリーが減っていることに愚痴を立てたが、素直に並んでアトラクションに付き合った。
お腹が減った2人は、園内のレストランで食事をとることにした。ここでも並ぶ現状にヘトヘトになったが、幸い待ち時間は少なく、席につけた。
頼んだメニューはウサギ―型のチキンライスとポタージュスープのセットだ。朝食抜きできたためか、AとBは無言で食事にありついていた。ふとBはかねてより聞いてみたかった質問を不意にぶつけてみた。
「Aはさ、その良心の呵責とかってないの?」
「どういう事だ?」
「例えば1回の爆破で数十名〜数百名が死ぬじゃない。自分を責め立てる何かってないの?」
Aは無言で食事をとっていたが、静かに笑い出した。
「…お前は何を言っているんだ?俺のミッションで死んだ奴は天国へ行けるぞ?だから一人でも多くの人間を殺すことを目標とするし、それが正しい事なんだ…」
Bの顔にはだんだんと笑みが浮かんできた。
「この人……僕より………イカれている!!」
ラストはライトアップショーを見て家路についた。バイクにまたがっているAはどうやら眠っているようだったので、Bはすこしスピードを落としたのだった。
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