第11話 蜂のごとく

2日後にロケット花火は届いた。作業員がガレージに運び入れる様を見ながら、男が言った。

「送り先もハッキングで消してあるんだろうな?」

「もちろん」

少年は胸を張って答えた。

「ありーっす!」

全て運んだ作業員は、挨拶をしてガレージを後にした。男は伸びをしながらあくびをした。

「よし、これからが最初で最大の試練となるぞ」

「な、なんですか」

「花火の先端に白い紙の筒があるだろ、これをほぐして中にある黒色火薬を缶に貯めていくんだ」

「1本何グラム入ってるんですか?」

「さあ。3〜5グラムくらいだろ」

「ええっー!?」

「まぁ根気との勝負だ。俺は寝てるから蜂のように火薬を集めろ、がんばれよ」

「そんなぁ!」

少年はおそるおそるカッターで花火を1本ほぐしてみた。中からパラパラ…と火薬が落ちてきた。

「これ3グラムもないんじゃないですかー!?何本やったらいいんだ!」

男からの返事がない。仕方なく少年は泣きながら作業にとりかかった。


――――


東京連続爆破犯対策本部には今日も人でひしめきあっていた。

「えー。こたび2度の失敗を受けて、指揮官冴島氷子を解任し、代わりに蛙谷利夫を指揮官に任命する」

周りはざわついた。冴島は悔しそうに下を向いている。蛙谷は立ち上がって言った。

「大体今までが甘かったんですよねぇ…私が指揮官になったからには容赦しませんよ。よろしくお願いいたします」


――――


トパーズはひたすら同じ作業を繰り返していた。そっと缶の中を覗いてみる。まだ3分の1も溜まっていないように見えた。

「あ〜〜〜〜ッ!!」

少年は床に寝転がった。何でこんな事してるんだろ…。

と、宅配便の元気良い挨拶が聞こえた。

「お、きたきた!」

少年は早速中身を明けた。瓶のバニラコークだ!

「これこれ、これがないとやっていけないよ!」

少年はその場で1本開け、飲み干した。

男がやってきて困り顔で訪ねた。

「それ、どうした」

「花火を注文した際に、注文したんだ!コーラが動力源でして」

「ウチの冷蔵庫はいっぱいで、1、2本しか冷やせないからな」

「おうのう…じゃあ1本づつ冷やしますか」

そう言って少年はさらにもう一本飲み干した。

「…変なやつ」

男は奥の部屋に閉じこもってしまった。

トパーズは腕まくりをして、作業に専念した。


夜――――


男は明るい部屋から頭をポリポリ掻きながら出てきた。

少年は机に突っ伏して寝息を立てている。周りにはコーラ瓶が散乱している。近づくと、缶に満タンの火薬が詰まっていた。ふふ、と笑みを見せた男は、そのままトイレに向かっていった。



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