第10話 焦燥
「俺の指示通りにお前も爆弾を作って、一番憎い人間にそれを渡すことだ」
それは余りに唐突で、無茶な指示だった。確かに憎い人間の一人や二人はいた。しかし爆殺したいとまでは思っても見なかった。男は悩んでいる少年を見ながら、またタバコに火をつけた。
「悩むくらいなら、最初からやるな」
「や、やるっ!やるから!」
喉を振り絞るように少年は叫ぶ。かすれた声で絶叫した。
「ほーう。それなら俺の言う通りに爆弾を作れ。なーに俺がガキの頃作ってた爆弾だ。難しいことは無い。楽しみにしてるよ」
そう言って男は再び明るい部屋へと消えていった。トパーズは汗まみれで深く息を吐き出している。ここまで行くと、もう後には戻れなかった。背中から汗が滴り落ちる。
少年は明るい部屋へゆっくり入り込んだ。男は後ろ向きで作業をしている。
「あの〜やっぱり僕爆弾なんて作れないんですけどぉ…」
男はクルリと振り返り、少年に拳銃を向けた。
「ひいぃっ!!!」
「やると言ったからにはやれ。逃げるなよ」
もはや少年は観念した。あまりの自分の無力さに腰砕けになる。と、ソファの足元にノートパソコンが置いてあるのを見つける。早速電源をつけてネットニュースに目をやると、爆破犯の話題でこれ以上ないくらいにひしめきあっていた。悲しいのは、複数犯ではないかと書かれていた事だ。僕の事なんだろうか…。
「さぁそろそろ始めるかぁ!」
男は両手を左右に振りながら、明るい部屋から出てきた。無言の自分。」
「お前はいくら貯蓄してるんだぁ?」
「えっ」
「お金だよマネーだよ!ほら早く」
「億単位で持ってますけど…」
訪ねた男はニヤリとした。
「じゃあ早速中国製のロケット花火を大量に輸入してもらう」
「ロケット花火…ですか?」
「2度も言わせんな。ハッカーなら余裕だろ、急げ!」
トパーズは慌ててノートパソコンに打ち込み始めた。
「日本製のじゃだめなんですね?」
「絶対にだめだ。中国製だ」
少年はサイトにたどり着いた。せっかく大量にといっているので100セット申し込む。
「あの―住所はどうします?」
「貸せ」
男は素早い動きでここの住所を打ち込んだ。
「さーこれでよし!中国人は金を弾むと特急で来るんだ。いいぞいいぞ」
「はぁ…」
「それじゃ花火が届く前に他の材料を調達しに行ってもらう。全部紙に書いてあるからな、迷うこともあるまい」
少年はケータイと財布と、紙切れを持ってフラフラと外に出ていった。
――――
「まずは500ミリの缶ジュース。のみ口が縮んでいるやつだ。飲み終わったら充分乾かすこと」
少年はのどが渇いて居たので丁度良かった。コーヒーを飲み干し、コンビニの袋に乱雑に入れる。
「次は自転車屋に行って自転車用のライトを買ってこい。フィラメントという豆電球だ」
少年は自転車屋に行き、言われたものを調達した。ちなみにトパーズは自転車に乗れない。
「あとはホームセンターに行って導線を何本か買ってこい。電池のソケットも忘れるな」
これが一番手こずった。線はいっぱいあるのだ。最終的にこれ、というものを買ったが心配でならない。
暑さの中、少年は前に足を出すのがやっとだった。視界は揺らめいている。
「ただいまー」
不思議とガレージの中は涼しかった。
「おう、買いそびれはないか」
「はい」
「よし、これで花火が届いたら早速開始だ!」
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