第50話

「まぁ、完全に自由な発想だとどこを目指していいか分からなくなるものですから、期日を決めて課題として書いたことが1つの作品として完成させることができた秘訣というところですか」


麻里亜も納得したように頷きながら聞いていた。こうして話していると、何か詮索されているような気配は無い。


「この主人公が倒した魔王って、どう見ても異世界に迷い込んだ現代日本人ですよね」


その通りだろうと勇も思っている。クラウンシティア、あの国の文化はどう考えてもこの世界の知識によってもたらされたものだ。


ネット小説でもよくある展開だ。異世界に迷い込んだ現代人は、携帯技術や情報アクセスの進化からくる高度なコミュニケーション手段を導入し、新たな文化と価値観を広めたりする。また、独自のエンターテインメントや先進的な医療技術なども導入され、異世界の住民たちに新しい視点や生活の向上をもたらす。そんな小説も多い。


「きっとそうだったんだと思います」


「え?」


「あ、いや、そういう設定で書きました。ページ数が限られていたのでその人のバックグラウンドなどは割愛しましたけど、異世界に迷い込んだ現代日本人がその知識を使って魔王軍に取り入り出世していったという裏設定を考えていました。文明力が魔王の治世に対してどの程度影響を与えていたのかは設定の中でも明らかではありません」


「ほとんどの作品では、異世界に迷い込んだ日本人が主人公になるのに珍しいですね」


(おれには日本から来た客人が異郷を変革できるような大活躍ができるとは思えない)


未開の地で現代人が科学知識を駆使して文明を作ることは、いくつかの重大な課題に直面する可能性がある。まず第一に、その地域の文化や社会構造に合わせたアプローチを取る必要があり、現代の科学技術は、その地域の環境や資源、文化といった要素と密接に結びついていない。


さらに、文明を築くには多くの資源やインフラが必要だが、未開の地にはこれらが不足している。適切な教育、医療、交通インフラが整っていない地域では、科学知識を応用することが難しい。さらに、文明の発展には時間がかかることも考慮する必要があるだろう。現代の文明が何世紀もの時間をかけて発展してきたことを考えると、未開の地で同様の発展を達成するには多大な時間と努力が必要なはずだ。


創作論を交えつつ食事をして3時間があっという間に経ってしまった。


「今日はありがとうございました。できれば、またこのような席を設けたいのですが」


朝倉社長の言葉に「こんどはわたしが用意しますよ」と勇は応じた。と言っても、勇には先輩たちと集う例の店しか当てが無かったが。

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