第48話

まだ硬さのとれない勇に比べて、朝倉女史はリラックスしているように見える。


高級ホテルのレストランはシャンデリアの輝きと柔らかな照明が、優雅で穏やかな雰囲気を醸し出していた。そんな中で、若き女性経営者は優美なドレスに身を包み、テーブルに座りながらレストランの雰囲気と相まって優雅な所作を披露していた。プロのウェイターが彼女のために注ぐワインは、ゆっくりとグラスに注がれ、芳醇な香りが広がる中、彼女は微笑みながらシャンパンフルートを手にし、優雅に乾杯した。


「お食事はお願いしておきました」


「すいません、ごちそうになります」


小説が気に入ったとして、わざわざ作家に会いたいと思うものだろうか。大御所になれば講演会を開けば聴講したいと言う読者は多くいるだろうが。


「朝倉社長、ライトノベルはよくお読みになるんですか?」


「いえ、それほどでもないのですけれど、たまたま書店で表紙が気に入ったので手にとりまして読み出してみるととても懐かし……」


「懐かしい?」


「いえ! とても面白い作品だと夢中になって読んでしまいました」


「マジですか! そんなこと言われたの初めてですよ」


(おれの作品より売れてる作品がたくさんあるだろうに)


「ご謙遜を。 あれだけ素敵な物語と世界観を描かれるなんて、とても勉強されたのでしょうね」


「いやー、あれはおれの故郷の……おっと」


「こきょう?」


「い、いえ、こ、今日のメインディッシュはなんですか?」


「海老を中心とした海鮮とお肉を 少しずついろいろな料理にしてもらっていますわ。どうぞ、ご期待なさってください」


「いや、お腹ぺこぺこで(あやうくボロが出るところだった)」


このとき勇は自分も慌てたため、朝倉女史の表情に現れていた微妙な変化を見逃してしまったのだった。


「あはははは」


「アハハハ」


一瞬、何かを取り繕うような表情になったが、すぐに二人とももとの顔にもどった。


「先生のご本を読んでから、わたしも思うところあって類書を読んでみました」


「他の作者の本もですか、それはお忙しいのに大変なことです。気晴らしになればいいのですが。あと、先生はやめてください。目上の方からそのような言われ方をしますと喋りづらくなります」


「ではなんとお呼びしましょうか」


「東上でいいですよ」


「では、東上さん」


「東上『くん』でいいですよ。若輩者ですし、今日はファン感謝デーなので」


「はい、東上くん。では、わたしのことは、『まりあ」と呼んでください」

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