第46話

マギカ社社長との会食は明日の夕刻だった。

指定されたレストランがあるフィフスシーズンホテルへ向かう。初めて行く場所だが、東京駅の地下道と直結していてすぐにわかった。


フロントで尋ねると、スタッフが案内してくれた。エレベーターに乗ってレストランは7階にあった。通常のダイニングとレストランとバーを兼ねた店があって、バーフロアに通された。


「東上武様ですね」


フロントスタッフから引き継いで、レストランのマネージャー風の女性が勇を連れて店を縦断する。自分を案内することも含めて予約されているらしい。


(それにしても高級なホテルだなあ。ロビーの絨毯はふかふかだったし、レストランとしてみてもこんなに寛げる店には入ったことないぞ)


一組ごとのテーブルが広く、店は いくつかの区画に分かれていて、どこも会議テーブルのように幅広く長いものが中央に置かれて、その周囲の壁際に向かい合う2人席や夜景を眺めるカウンター形式の席が設置されていた。


(アーシェスの裕福な商人や貴人の邸宅を思い出すな)


その中をさらに奥へ歩く。


店の奥に窓際に面したサークル型のソファーに囲まれた一角があった。窓の外にはJRの電車とビル群と街の店の明かりを見下ろす絶好のビューだ。都会に生きていることをこれほど実感させる眺望は無い。スカイツリーから眼下に東京の町並みを見下ろすのとまったく異なる趣だった。


これまでドラマや小説や映画で見たどの高級なラウンジとも異なる趣のシートだった。


勇は己のクリエーターとしての発想の貧困さを恥じた。だが、他の作家の高級なホテルやレストランのイメージも画一化していて、大して違いがないのできっとみんなそんなに贅沢はしていないんだろうなと思った。


大体高級ホテルのバーで男女が飲食をともにするなんて、大概ネオンライトのカウンターバーを連想するが、そんなもの高級でも何でもない。どこの繁華街にでもあるバーカウンターだ。


むしろファミレスにあるような弧を描くコーナー席を最上の雰囲気に仕立て上げたような席だった。ホテルの部屋の一部がレストランにあるようなくつろげる空間。


「東上武さまです」


丸の内の夜景を背中に、背の高い女性がこちを見ている。どのタイミングで知らされていたのか、すでに到着を知っていた朝倉女史が立ち上がって出迎えてくれた。


(おれと同じぐらい身長があるのか、テレビで見たより細く見えるな)


「お招きにあずかりました、東上武です」


彼女は深々と頭を下げた。一国一城の若き主人にそのような礼を尽くされては恐縮すると言うものだ。


「朝倉麻里亜です。 今日はお忙しい中、 こちらのわがままでご足労をおかけして申し訳ありません」

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