第45話

「創作に関心があるので、機会があればご教授願いたい」とも書いてあった。


「教授? なんだろう?  自分も小説を書きたいということだろうな。 それなら小説学校に通うのが良いと思う。それとも家庭教師でも頼まれるのだろうか。だとすればお金持ちならではの贅沢なら道楽だなぁ」


そう言えば編集者のSさんがメールを読んだら、必ず連絡するように言っていた。スカイプのメッセージに返信する。


「メッセージ読みました。いま、話せますか?」


テテテテテテ、テン♪ おなじみの呼び出し音の後に、「はい、はい」とS氏の声が響く。


「東方です。メールを読みました」


「どう思いましたか?」


「うーん。会えばいいんでしょうか?」


「お会いになりますか?」


「ええ、ファンの方に会うなんて初めてですから。まずいですか?」


「いいえ、ぜひそうしていただきたくて確認をしたのです」


「Sさんも賛成ですか」


「編集長もぜひ会ってほしいといっています」


「K編集長が……じゃあ、問題ないですね。わたしはだれでも会うのはかまいませんけど、ファンと会うのは編集部的に問題無いんですね」


「一般の読者の方だと不特定多数と接触するのは、イベント以外はやめた方がいいですね。でも、相手は身元のしっかりした人ですし、ご存じのとおり***社と関係を作れれば何か面白い展開があるかもしれません。」


「企業タイアップとか?」


勇はふと思った。


「悪戯やなりすましということはありませんか」


「メールのドメインなどは本物ですね。念のために、こちらからも先方へ連絡しています。著者に確認を取るのでしばらくおまちくださいという旨で」


会社にまで問い合わせたのなら間違いないだろう。今回の申し出は個人的なものだが、なにかビッグビジネスにつながるかもしれない。編集部にはそんな思惑があるようだ。その後、S氏に自分の都合のいい時間帯を伝えた。


「今日の執筆は中止だ」


インターネットで企業情報を検索した。


***社は新興の商社だ。会社も数年の歴史しかないが手広くやってる。その評判の若社長、名前を朝倉麻里亜と言う。20代の後半というプロフィールだが、本人を目にしたことのある人間には美人と評判のベンチャー企業家。一度会った人間は忘れることのできぬ、年齢にそぐわぬカリスマ性を帯びているのだという。IT関連から伝統工芸まで彼女の気に入った品を扱う個性的な商社だった。


もちろん、一人の審美眼だけでは個人商店しか営めない。人を見る目も確からしい。有能な人材を見抜き、ビジネスは右肩上がりの成長企業とのこと。


ベンチャー起業家というものは、メディアに露出するのを好む人間が多いが、ネット上に彼女の画像は無い。


本人曰く、


「自分は恥ずかしがり屋だから」と言うコメントだけが見つかる。 メディアへの露出は好まないようだ。


「そんな人が、何故おれに会いたがるのだろう」

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