第44話
40代の大学講師は、清潔感のあるビジネスカジュアルなスタイルを身にまとっていた。スーツやネクタイではなく、シャツにジャケットを合わせ、スラックスやデニムを穿いて講義をしていることが多い。薄めの眼鏡が知的な印象を与え、整った髪型は仕事への真摯な姿勢を反映しているのか。忙しい日常に適応できるような機能的なファッションとして、カジュアルな雰囲気が漂っていた。
「小説を書くという作業は、旅に似ています。小説を書く前には、いきなり書き出すのではなく、何を書きたいか、それをどういう順番で書くか決めて書き出すといいでしょう。それは旅行に出発する前に、旅のしおりを作る作業に似ています。また、小説を書くという作業は旅に似ています。原稿用紙、いまではパソコンの画面が多いでしょうが、それに向き合い、自分の内面を旅することになります]
アーシェスの軍議では、よく黒板にフローチャートを書かされた。目標の設定、必要な手順、そこへ至る道を遮る課題を書きだしていく。これは軍隊の行動の基本だった。これは小説のプロットを作る作業に当てはまった。
自分が生まれてから、仲間たちと従軍し鍛錬を繰り返しながら、やがてまた旅に出る。その道程で出会った人たちや、困難が懐かしく思い起こされる。
ある程度のページ数が書けたところで、インターネットの小説投稿サイトに載せてみたが、前半部分はよくあるファンタジー小説の体で、あまり第三者が読んでカタルシスを感じるような内容は無い。こことは違う世界の日常を描いただけだった。
それでも徐々に人気が出てやがて出版のオファーが届いた。ここまでとんとん拍子だっとたと言っていい。そして今では何やら企業の偉い人からもファンレターをもらう身分となった。
編集部のS氏はファンレターをスキャンしたデータを送ってくれた。
「謹啓時下ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。ん? なんか堅い挨拶だな。こういうのはビジネスレターの最初の行に書かれるものだろ。どれどれ、わたくしは、***社でCEOを務める+++という者です。なんか聞いたことのある会社名だな」
大企業だった。CEOは「Chief Executive Officer」の略で、最高経営責任者を指す。組織や企業の最上位の役職であり、経営全般の責任を持つリーダー。出版社へメッセージ送信フォームからではなく直筆の手紙が封書にて届いた。
「『召喚勇者さまのお供をしています』を読んで、深く感銘を受けたとのことだが、そこまでリスペクトを受ける要素があったかな?」
ライトノベルを 読んで感銘を受けると言う感想は少ない。売れる作品と言うものは、大体読みやすいとか、登場人物が好きだとかの感想が先に来るものだ。
なにしろ、自分の経験談を綴っただけだ。実際に起きたことや存在する世界の記述だから、娯楽的観点だけではなく、読む人が読むと興味深いところもあるのかもしれない。とくに彼独特の作品世界の設定が好きだという。市井の人々の姿が生き生きと描かれていてとても親近感が湧くのだと。
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