第41話

「姉上……ではなく、ホムラさま、お入りください」


「もう、他人行儀だなあ。わたしたち命を預けた仲でしょ、ホムラでいいよ」


旅のはじめにはホムラもヨナのことを「ヨナくん」と呼んでいた。「姉弟のふりをして旅をするのだから、どうぞ呼び捨ててください」と言ったのはヨナだった。


「ホムラ、あまり出歩かず近衛たちのそばにいた方がいいのではないですか?」


王宮の中は警備が厚い。昼日中に暗殺者も現れたりはしないだろうが。


「ここが一番安全よ。あなたのいるこの部屋がね」


ヨナの技量を信頼してくれていた。


「とても凛々しい姿ですね」


ホムラは旅の装束を着替え、近衛の服を着ていた。髪も束ねている。お勤め中の女性武官という出で立ちだ。白いパンツにロングブーツの足元、ネーヴィーブルーの丈の短い上着を白いブラウスの上に羽織っている。


「とても動きやすいし、この方が目立たないでしょう」


「賢明です」


ヨナがポットからカップにお茶を注ごうとしたら、「ああ、やるから」彼女はヨナをソファーに座らせた。お茶の用意ができるとヨナの隣に座り、くつろいだ。


しばらく無言でいた。一緒にいる時間が長かったので沈黙も苦にならない。「何か用ですか?」と訊くこともない。


彼女の目線を追うと、ベッドのそばに置いたヨナの荷物に向いていた。


「ねえ、ヨナ」


「はい」


「あなた、これからどうするの? このアルデンヴァル国に残るよね?」


「それは……わたしの一存では決められません」


「残りたいとは思っているでしょう」


ホムラがじっとヨナを見つめていた。


「去りがたい気持ちが強くあります。務めを果たしたので、師匠のもとへもどるべきではあるのですが」


士官をしたいとはまだ考えていないが、フィオレンティア姫の家来になるということにも抵抗はない。


「でも、いずれあの寺を出ることにはなるのでしょう。いまがその時だと思うけど」


「ホムラ、あなたを護るためにここに残りたいとは思っています」


「よかった!」


ホムラがヨナの手を自分の両掌でぎゅっと握った。


ホムラは温かい手を持っていた。細い指と柔らかな手のひらがヨナの手を包む。


(握り返してもいいのかな?)


女性とのスキンシップに慣れていないヨナはしばし石像のように固まっていた。


「あなたがいればわたしもフィオレンティア姫も安心できるわ」


「そんな……買いかぶりすぎですよ」


ヨナたちは部屋の中央に立ち、お互いを見つめ合っている。


ホムラの身長はヨナよりも少し高い。新調した近衛隊士の制服はとても凛々しく見えた。

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