第38話
「うーん、クズかな」
唯は容赦が無い。
「口が悪いな。そうかもしれない。だけど、生きて働く、家族を養うと言うことはそう単純なことではないということを作者は伝えようとしてるんだな。そうだ、これをメモってメモって。この作品の主題の一つだよ」
「え? え!?」
ぼくら三人は持参した学習帳に慌ててメモを取り始めた。
「今のところは作品のあらすじ紹介じゃなくて自分が感じ取った主題を書くところでつかうんだぞ」
「主題ってなんですか」
「テーマだ。わかる?」
「ああ、はい」
ぼくは主題を読み取るということは自分で気づかなきゃいけないような気もしたけど、いまの先生の指導はギリギリ気づきを促したということでセーフなのかな? と迷った。カンニングをしてしまったような後ろめたさを感じる。ただ読んだだけでは読み取れなかったテーマ。大人目線で読んで初めてわかるテーマ。
(でもよく考えてみたらそれは裏のテーマと呼ぶべきものであって、本当にテーマとしてぼくたち本当の読書対象者に伝えるのなら、大人目線でわかるという内容は本当のテーマとは言えないのじゃないかな)
「こういう社会的なテーマを織り込んでいるところが他の児童書と一味違うところかな」
この本がとても評価が高いことはぼくも知っている。でも、その評価って大人の評論家の人たちが決めているものなんじゃないだろうか。もちろんその前に内容がおもしろくて子どもによく読まれていると言う前提はあるんだろうけど。そう言えば、東方さんも作家だけどこの本のことは高く評価しているみたいだ。
「あらすじの続きだけど、お父さんの失職は家族の生活を変化させるね。それで主人公はどうなったか」
「卓球に専念できなくなりました」
百合は長い黒髪の前髪を切り添えた下の色白な肌にパッチリとした眼で講師を見つめている。
「そうだ。これが主人公の卓球クラブ活動に影を落とす。変化の原因だな。この変化が主人公に与える影響は他に何があったかな」
だんだんクイズ形式になってきた。こうなると唯も興が乗ってきたようだ。
「えーと、専業主婦だったお母さんが仕事に出るようになりました。主人公が幼い弟の面倒を見る時間が増えてクラブ活動をする時間が少なくなりました。」
百合が補足した。発言が活発になっていく。
「これもあるよ。クラブ活動が休みがちだった別の生徒に主人公は熱心じゃないと不満を持っていました。でも自分が自由に活動ができなくなってその子にも事情があったと言うことを思い知るわ」
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