第39話
「そうそう。いま気づいたことを書き出せ。この調子でいけばすぐに書きあがるぞ」
ぼくの家は母子家庭だった。作品の主人公のように面倒をみなければいけない弟や妹はいなかったが、その分母が家に帰るまで独りの寂しさを感じることはある。だから自分自身の寂しさだけでなく、もし弟妹がいた場合には寂しさは減るかもしれないが重い責任を負うことになるのではないか。
ぼくの寂しさを察してか学童保育以外にも女の子の友だちたちが家に遊びに来たり、彼女らの部屋に招いてくれることが多かった。
読書感想文の書き方として作品内容の紹介の後に、読み取ったテーマを示すこと、自分が共感を得た主人公やその他の登場人物の行動や、逆に共感しなかったこと、自分の生活に置き換えた気づきなどを書いて、最後にこれからの毎日をどう過ごしていきたいかを綴った。
「嘘、三枚に収まらないよ。書き直さなきゃ!」
原稿用紙を三枚埋められればいいとだけ思っていた唯もあまりにすらすら書けたものだから感嘆の声を上げていた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。先生のおかげで苦手だった課題があっという間に終わりました」
「それは良かったね」
オーバーした下書きを削りに削って自分で言いたいことを選んで清書した。捗ったが、それでも17時近くになっていた。「外で遊んでいる子どもはお家に帰りましょう」という放送が流れる時間だ。
最近は塾などに通っている子も多いから小学生だって19時20時ごろまで外を歩いてはいるけれど。
(まだお母さんが帰ってくる時間には早いな)
いつも帰宅してから何時間で母が帰ってくるかを考えている。
今日は人と接する時間が長かったせいかあまり孤独を想像することが無かった。
「あの」
ぼくはおずおずと言った。
「この前借りた先生の書いた本、まだ最後まで読めてないんですけど」
「そうか、課題図書を優先すべきだしな」
「いつまで借りてていいですか?」
ぼくはまた東方勇先生と会うことを期待していた。
「急がず読み終わったら感想を聞かせてくれたまえよ」
「あの、じゃあライン交換しましょう」
そうだ。ぼくは東方氏とのホットラインが欲しかったのだ。
「ライン? うーん、大学の友だちと編集者しか交換してないんだが、いや待てよ。作家仲間にバイト先のみんなけっこう交換してたな」
刹那ためらうそぶりを見せたが、勇先生は思い直してライン交換に応じてくれた。
「積極的ね、王子」
百合に言われて少し照れる。
「じゃあ、わたしたちもお願いします」
結局、三人と交換することになった。
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