第36話
従来の作家志望者からすれば短期間での書籍デビューだった。三人の児童にもそれは理解できた。思わず尊敬の眼差しになる。それに文章が下手なぼくにとっても、短期間でみるみる上達できたと言う彼の体験談は大きな希望だった。
ぼくはには伝えたい気持ちがあってもそれを表現するのが下手だった。無口で母を心配させている。本当はお母さんにも毎日感謝を伝えたい。
そんな物思いに耽っていると彼は続けた。
「まあ、おれのことはおいといて、感想文の書き出しは対象となる作品の紹介から始めるのが良いと思う。映画レビューなんかでも作品のあらすじや出演者やスタッフの紹介をしてから感想に入ることが多い。『チームふたり』はご存知のとおり内容は小学校を舞台にした卓球クラブの生徒とその家族を描いたお話だが、君たちは読書感想文を書くのは苦手か?」
「あんまり」
「この本を選んだのは百合ちゃんだっけ? 君がいちばんこの作品に自分を重ねて共感しているようだからその気持ちを文章にしたらいい」
「それが難しいんです。自分が感じたことをどう言ったらいいのか」
「自分の考えを表現する言葉をボキャブラリー、日本語で語彙と言う。たとえば、おもしろかったという感想を表現するためにもう少し細かい言葉に分けて置き換えていく。おもしろかった作品の中身もホラー作品であれば、怖くておもしろかったとか、コメディなら登場人物の行動が馬鹿馬鹿しくて面白かったとか面白さの種類をまず説明しよう。その次に背筋が凍るとか心臓がドキドキしましたと言う体の反応を使って説明する言い方もある。恋愛小説や冒険小説でもドキドキハラハラという反応になることはあるけれども。この作品のおもしろさを後で細かく書き出してみよう」
「おおー」
ぼくら小学生にも言い換えや細分化の概念は理解できたので勇先生に対する視線に尊敬の念が込められるようになった。
(さすがプロだなあ)
こんな時にSNSではよく貼られる、ドラえもんの登場人物、のび太のお父さんの画像が頭に思い浮かんだ。
「じゃあ、下書きを始めよう」
「はーい」
ぼく以外の二人も東方先生に心を開き始めているようだ。
「読書感想文の指定された文字数が1200文字以内で400字詰め原稿用紙3枚となっているから、改行に伴う空白のマスが生まれることで実際には1000文字程度になるだろう。
題名と名前を書いたら2行だな。次に作品説明をしよう。一行20文字が60行ある内、二行をもう使ってしまった。でも内容説明は作品をどれだけ理解できたかを見せることになるから気前よく20行使おう。後に書くことが文字数オーバーしたら書き直して簡潔にすればいい」
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