第35話
自分の意思でこの本を選んだ百合ちゃんは、ぼくたちよりも感想が書きやすいはずだ。
「共感を得やすい要素は他にもある。主人公の趣味が自分と一緒であるとか出身地とか自分の職業とか、君たちの場合は親の職業かな」
東方勇「先生」の外見は真面目そうな大学生に見える。髪を染めているようなこともなく、くどくないあっさりとした顔立ち。ただもしかしたらと思うのだが、彼は同年代の大学生に比べてもどこか落ち着いた雰囲気を持っているのではないだろうかとぼくは感じた。他に大学生を知らないから確信は無いけど。もしかしてテレビの中のタレントやドラマの登場人物と比べているのかもしれない。
社会人の大人の人ほど疲れた顔をしてなく、一般的な若者のような馬鹿騒ぎもしそうにない抑制的な声音からそう思った。
「高校生なら高校生が主人公の漫画やドラマが共感しやすいだろうな。名探偵コナンやワンピースみたいな少年漫画の看板レベルの人気作に比較的年齢の低い主人公が多いのもそういうことなのかな」
基本的に少年誌掲載作品だから主人公も小学生などが人気になりやすい。
「ただ、これだけ人気があるところを見ると子ども向けにスタートした作品も大人が好んで鑑賞するようになることは大にしてあるようだ」
ぼくたち四人は教室と言っても、紅茶を飲みながらおしゃべりするように彼の創作論を聞いていた。そう、教室と言うよりもお茶会と言った方がぴったりだった。
(なるほどプロの作家はヒット作品に対してそういう見方をしているのか)
クリエーターは純粋な娯楽ではなく観察対象として他者の創作物を観るくせがつくのかもしれない。
(でも、それってつまらないかもね)とぼくは思うのだった。
さっき東方先生が言っていた共感も本当の意味での作品の面白さとはちがうものなのかもしれない。自分と共通点があるから好きになる、ならば共通点が無ければ好きにはならなかったはずだ。本当におもしろい作品は個人個人の好みはあれど、だれが読んでもおもしろいはずだ。ぼくは幼い考え方をしていた。大人になると個人の理解力によってもおもしろさに気づける場合と気づけない場合もあるのだと後に悟った。
「さて、読書感想文の書き方だけど」
いよいよ実践的な話に入る。
「実はおれは学校で読書感想文を書いたことはあるけど、その当時はまだ小説を書く練習もしてなくてめちゃくちゃ文章が下手だった」
「先生はいつから小説家になろうと思ったんですか?」
「書き始めてから2年も経ってない」
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