第31話
池袋に着いた。南口の地下通路を通って東口に出る。池袋駅には東武デパートと西武デパートが併設されているが、西口が東武デパートで東口が西武デパートなのである。ちなみに東武の名称の由来は武蔵野の東部という意味だ。東部の東と武蔵野の武。同様に西武グループの名称の由来は武蔵野の西部と言う意味だ。武蔵国はというと、古代21令制国の一つで現在の埼玉県と東京都の大部分、神奈川県川崎市と横浜市の大部分を含まれ、武州と呼ばれることもある。
「おう、来たか」
サンシャイン通り近くのスナックに入る。メンバーの一人が常連なのだという。よほど酒が好きな大学生でなければなかなかこんな年季の入ったスナックには通わないだろう。
「どうもー」
大学生でなく作家として言えば誰しも行きつけのバーやスナックぐらいはあるものだ。
そこに集うのは勇を含めて六人の作家。
最初に声をかけて来たのは、六人の中では最も芸歴の長い、三日月三条先生である。
作風はベテランらしく正統派ファンタジーからサスペンスまで幅広い。ライトノベル出身だが今回参集したメンバーでは唯一、一般作家としての知名度がライトノベル作家としての知名度を大きくしのぐ。
もともと小説好きには少なからず知名度のある人物だったが、最近の著書では「三年ぶり二度目の異世界召喚記」が人気だ。
勇たちが新米作家に近いのに比べて三日月だけベテランであるにもかかわらずネット小説6人衆と呼ばれるのは、彼のデビューはずいぶん前のことでしばらく普通に作家活動をしていたからだ。本人曰く「食えるか食えないか」レベルの職業作家だったらしい。不遇の時代を過ごしていたが、ネット小説が流行する中でボツ原稿や彼自身の楽しみとして書いていた原稿をネットに掲載したところ大受けし、改めて人気作家となったという異色の経歴のためだった。
勇たちは彼のことを「大」先輩と呼んでいた。芸歴が長いだけあって引き出しの多さは勇たちの及ぶものではなかった。そういった意味も込めての敬称である。
「もう始めてるんです?」
三日月の隣で既に赤い顔になっているのは、鬼丸国綱先生である。年齢は見た目アラサーのようだが尋ねてない。
「別に飲み放題の時間制じゃないからいいだろ」
「最初から日本酒ですか」
異世界人である勇にも「とりあえず生」という習慣はある。鬼丸は酔いどれラノベ作家という呼び名もあり、その作風も必ず酒がキーワードになる。代表作は「異世界キャバクラぼったくり」。彼の酒好きと綿密な取材(?)によってまるで読んでいるだけで読者もキャバクラに居るような錯覚を覚えるほどの丹念な筆致が好評だ。彼の水商売知識を聞いていると実年齢はアラサーよりもっといっているのではないかと勇は思っている。
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