第30話
さらにはこんな出来事も。
「赤入れをした上で改稿をお願いしたのですが……戻ってきた原稿は、わずかに数行が変わっているだけだったのです。作者はネットに投稿した時点で力尽きて、もうどうしても書けないというのです」
これは勇もちょっとわかる気がする。決して計画的に書かれたわけでなく、ノリにまかせて読者とのコミュニケーションの中で好きに書くのがネット小説を書く楽しさの一つだからだ。描きたいものを書いているのである。それでうまくいったのだから直せと言われても直しようがない。
編集者の仕事は、作家の卵たちをプロとして育てていくことなのだが業界も疲弊していてそんな余裕が無いそうなのである。
さらにはいつまで待っても原稿が仕上がらないので編集者がゴーストライターを務めることも多々あるのだそうだ。
ネット作家の多くはもともとプロになりたくて書き始めたわけではない場合が多いので、書籍化は嬉しいがそのための地道な作業などしたくはないのが本音であろう。多くのラノベ編集者が作家の代わりに原稿を書き直すことが仕事になっていると記事にある。
勇がこれから会う人間の中にその道のオーソリティーがいる。記事では編集者自身が原稿執筆しなくてはならないとあるが、もう少し編集部の予算に余裕があればプロのゴーストライターを雇うところであろう。
ゴーストライターは他の人の代わりに文章を書くプロのライターである。通常、クライアントのアイデアやストーリーを基に文章を構築し、その著作権もクライアントが保持する。ゴーストライターの仕事は機密性が高く、匿名性が求められる。報酬はプロジェクトやライターの経験により異なる。
どんな人がゴーストライターを務めるのか。彼ら彼女らには、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいる。小説家、ジャーナリスト、マーケティングライターなど、文章を得意とするプロがゴーストライティングを選ぶことがある。クライアントの声で執筆し、匿名性が保たれることが期待されるため、文才以外にも信頼性や秘密保持能力が求められるるだろう。
「中には、ほぼすべてを編集者が書いている作品もあります」と記事は結ばれていた。
勇は思った。
「おれの編集者もこれぐらいサービスしてくれたら良かったのに」
などと不謹慎なことも考えたが、それではなんのために小説を書いたのかという疑問も残る。
まあ、頼むことも頼まれることも無いだろうし、自分には無縁の話だと、その時の勇は思ったのだった。
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