第29話 ラノベ作家だよ、全員集合!
一章を読み終わって、王子は深く息を吐く。異世界の広がりと冒険の興奮が、ページをめくるたびに心を引き寄せる。主人公の勇者が未知の土地を踏みしめ、魔法や奇妙な仲間たちとの出会いが、読者を日常の喧騒から解放してくれる。夢幻的な風景と困難な試練に立ち向かう姿勢は、読者に勇気を与え、一時的な安らぎをもたらす。異世界の魅力が言葉によって広がり、読者は冒険に浸る中で、現実の喧噪を忘れ、心を癒す。
「これは……想像以上に面白い!」
その頃、勇は池袋に向かう東武東上線車内にいた。
SNSが騒がしい。ライトノベルはソーシャルネットワークと相性がいいため作者である勇もツイッターの投稿をよく見るようになった。自分の作品への感想を読むことなどもある。
webサイトにある記事が拡散されていろいろなサイトやSNS上で話題になっていた。
なんでもライトノベル業界に崩壊の兆しが見え始めているのだそうだ。出版界で唯一、右肩上がりのジャンルと言われていたライトノベルだが、どういうことだろう。
要約すると、記事が一番問題視しているのは作家の枯渇。作家志望者は星の数ほどいるが、良質な作品を書ける作家の枯渇という意味合いのようだ。
そうなる経緯として文芸出版の現状を説明している。
出版不況の中、ネット発の作品が台頭し売上の上位を占めている。勇の作品もここに含まれる。
だがネット小説の席巻が、逆にライトノベルの勢いを止めようとしているとかなんとか。
出版社が新しい作家の発掘をネットに依存するようになった。ネット小説投稿サイトのランキング上位にいる作家は、ほぼ大手出版社がスカウト。中小のレーベルもそれに倣う。編集者の仕事がネットで目を付けた作家をスカウトすることに偏ってきた。
本にするのに十分な文字数の原稿があるし、ファンの数も見え、売り上げが予想しやすい。ただし、いくら人気作品でもそのまま出版できるレベルに達している作品は限られているとのこと。
勇の知る限り、書籍出版の際にはプロでも編集者と話し合って何度も改稿するのが一般的であるはずだ。自分も長い期間をかけて何度も何度も作品を修正した。自分ではこれはいい経験だったと思っている。
勇自身の経験が一般的かはわからないが、改稿指示はまず文字数の調整と、どこで一冊の内容を終わらせるかの検討から始まる。
ネット小説は新人賞応募と違って明確な計画が無く書かれているものが多いから、新人賞であれば12万文字程度で物語が一応の完結を迎えていなければならないのに対して、起承転結で言えば承の部分が延々と50万文字も続いていることも珍しくない。
「そこで、出版の際には改稿をお願いするのですが、何度書き直しても、出版できるレベルに達しないのです」
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