第27話


「いけない。少し流されそうになってた」


気を引き締めて腰の山刀に手をかけた。


「お待たせ。上がったわ」


ホムラが風呂上がりの髪をタオルで拭きながらドアを開けた。


(何だろう、この感情)


濡れた黒髪にリラックスした表情と、宿から借りた寝間着姿の年上の女性。それを表現する「色っぽい」という語彙がヨナには無かった。


食事は頼めば宿で用意してくれる。二人はテーブルを挟んで土地の食事を楽しんだ。路銀は弾んでもらっているので豪遊しても困らないぐらいだ。


蝋燭と油の灯篭の間接照明のそばでは料理もより美味そうに映える。


「ホムラさま、いえ、姉さん。お酒を頼まなくても良かったですか?」


ホムラは両手を振って固辞した。


「そんなそんな、わたしまだ未成年なのよ。お酒なんて」


ホムラは17歳と聞いた。この世界では立派に大人だ。それにこの世界では酒は飲めるようになったら飲んでいいことになっている。年齢制限があるわけではない。


ホムラはここまでに旅すがらフィオレンティア姫配下の騎士たちがビール、リキュール、ワインなどを毎晩飲むのを見ていた。フィオレンティア自身も年齢は14歳だがたまにワインを嗜んでいた。所変われば習慣は異なるのだと、この世界に存在する酒類の種類ぐらいは知っていた。


ホムラが酒を飲まないのでヨナも控えた。食後に紅茶を淹れてホムラにすすめた。


「紅茶に蜂蜜を入れますか?」


「うん、お願いするわ。ねえ、ヨナ?」


「はい」


「あなたたち、旅人はみんな蜂蜜をよく買うのね」


ヨナがカップに紅茶と蜂蜜を注いでいるが、これは旅の荷物に入れていたものだ。出立の時にも持たされたが旅の途上、ビスケットやパンに塗ったり事あるごとに蜂蜜を食していた。ホムラも蜂蜜は好きだったが、元いた世界ではこんなに旅の必需品のように肌身離さず持ち歩いたりはしなかった。


どこの宿でも蜂蜜が売られている。きっと明日の出発前にはまた新しい蜂蜜を買うのだろう。


「蜂蜜は腐りませんから、保存食や非常食として重宝されます」


蜂蜜は糖度が強すぎて細菌も生きられないのだと言うことは現代日本でも聞いたことがある。かつては登山の際にも必需品であったと聞いた。他にはチョコレートやマヨネーズなども登山食に挙げられる。それは昔の話で現代では高カロリーの加工食品を持参するということだったが。


蜂蜜を入れた紅茶はとても美味しかった。入れすぎじゃないかってぐらい多めに入れる。菓子類が少ないから甘味は老若男女だれでも好むようだ。


「よほどの寒冷地方でなければ蜂蜜はどこでも採れますから。宿場ごとに買い求めることができます」

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