第21話

ある意味では小説家としてデビューがとてもしやすい時代になったと言うことだ。しかし、そのかわりに次から次へと新人がデビューするから、それのみを生業として続けることは難しい。


こうした出版不況と言われる状況も含めて小説を書き、出版する方法を勇は近隣住人に講義していた。高齢者は若者に比べてまだまだ紙の本を読むことを楽しみにしている人間が多い。なるほどと出版業の人間に対して同情的な面持ちで勇の話に聞き入っていた。


その日のワークショップも終わり、お茶を飲んで一同が一服している頃、王子が勇の方を見ていた。


(小学生がよく飽きもせずに静かに聞いていたな)


子どもが聞いても面白い話ではないだろうと勇は考えた。この話は年配の、一度は自費出版などしてみるのも悪くないと考えている向きに有用な内容であるはずだ。


一同が解散し、勇が鞄にノートPCをしまおうとしても王子は帰らずにいた。


「……」


少年は立ち上がると、とことこと勇の傍らにやって来た。


「?……何か質問」


「東方さんは小説家なの?」


「う……うん、まあ」


自分が小説家かと問われれば、口ごもりそうになる。そもそも小説家とは何かと定義論を始めればネット掲示板では白熱した議論が起きる。別に本を出したから小説家かと言えば、本を出さなくても作品を執筆中ならばその人は小説家であるだろうし、小説を書く構想をしながら他の作家の小説や漫画を読んでいる時も人はきっと作家なのだろう(異論があれば本作品の感想欄へどうぞ)。


「へー、すごい!」


小説家である前に大学生である。大学に通いながら小説を書いているのであって小説を書きながら大学に通っているのではない。作家大学生であるとあえて言いたい。大学生作家なのではない。


目の前の少年にはそんなことはどうでもいいのだろうから、とりあえず横に置いて話を進めることにしよう。


「すごい? ……いやー、そんなこと、あるよ」


謙遜しすぎるとかえって嫌味に聞こえることがあるのでユーモアで返すことにしよう。


「ねえ、ねえ。お願いがあるんです」


「お願い? とは」


「読書感想文を書きたいんです」


「読書感想文?」


「はい」


王子は100センチも身長があるだろうか、勇と向き合うにも顎を上げて見上げる姿勢になる。勇は少し体を傾けて彼との距離を縮めた。


「学校の宿題?」


「そうです」


「もう夏休みは終わったろ」


「最近は秋の読書週間に向けて宿題が出るんです。夏は別の宿題が出ました」


後で調べるとこれは自治体でまちまちのようだ。


「ふーむ」


ちょっとためらったのは自分自身が読書感想文を書いた記憶があるにはあるが、まだ日本語が不自由なころで読むのも書くのも一苦労な上に、提出した感想文もとても読めたものではなかった記憶があるからだ。


そう言えば君は何年生だ?」


「四年生です」


すると10歳になったかどうかというところか。


「読書感想文って課題図書があるのかい?」


「あります」


「なんて本?」


「これです」


「『チームふたり』か、聞いたことはあるな」


卓球をテーマにした児童小説だったと思う。


「君はもう読んだの?」


「はい」


「作文は苦手か?」


「あんまり得意じゃないです。なにを書いたらいいのか決まらないんです」


『カケヨメ』の一投稿者として言うと、感想投稿は身近な機能だ。感想をもらうことは投稿作者にとって大きな励みになる。自分も他人の作品を読んだら時々感想コメントを投稿していた。

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