第20話

雑誌の休刊は廃刊と同義である。休刊した雑誌が復活することはほとんど無いが、稀に時代にブームが来て再評価されるようになると何年も休刊していた雑誌が、復刊されることもある。同じようなことは自動車のブランドでも見られる。新型車に往年の名車の名称を再登板させることもたまにある。


「インターネット上の各種情報サイトで個別のニュースを見ることができる。新製品情報などは頼まなくてもバナー広告が表示される仕組みだ。だから継続的に時間をかけて読む書籍以上に、記事が独立していて気軽に読める雑誌が打撃を受けるのも無理からぬことだろう」


休刊した雑誌の一部はインターネットで配信されるweb雑誌へとその形態を変えることもある。


本好きと一般に呼称される場合は、主に小説などの書籍を読むのが好きな人を指すだろうから、「なあんだ、じゃあ読書人口が減ったわけじゃないんだ」とか「本はそれほど売れなくなっているわけじゃないんだな」と思うかもしれない。


堅苦しく話をしていたわけではない。編集者と勇はこの時もテーブルに向かい合ってコーヒーとお菓子を食べながらこの話をしていたのである。


「しかし、そこには数字に隠された別の意味がある。さっき言った年間売上額は合計の金額である。上記の売り上げが最盛期の1996年度、書籍新刊刊行点数が55000点程度だったのに比べて、2013年が82000点強。単純に計算して27000点の新刊を増やして発売し、得た売り上げが3150億円減ったということになる」


おそらくどの年も、その年を代表するベストセラーはあっただろう。それでも一つのタイトルごとの本の売り上げが大幅に減ったと推測できるのだ。


「出版社の人間にとっては倍の仕事をして経費も倍かかる。それでいて売り上げは下降、それでも会社を運転させていかなければならないから、さらにたくさんの本を出す」


「薄利多売にならざるを得ないんですね」


勇は編集者の意を読み取った。


身もふたもないことをことを言えば、だからこそ出版社は流行り物にはなんにでも手を出し、自分をはじめとするネット小説家と言われる、デビュー前からファンを持っている人材をスカウトするようになったのだろうと勇は考えた。


住民への講義では勇が持参したノートPCを、小型のプロジェクタに繋いで白い壁に投射した。グラフもわざわざ勇がパワーポイントで作成したものである。

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