第16話

「サファリを起動して カケヨメ を開く」


webブラウザーの起動とともに特定のサイトを開くこともできた。


このあたりはマシンが聞き取りやすいようなコツを要する。静かな部屋で、なるべく抑揚のない声で話すと指示を認識されやすい。


「カケヨメ」は創作系では屈指の人気サイトだ。ここに投稿して人気が出た作品は出版社から書籍化のスカウトが来る。


2年前、大学の講義で小説の書き方を習った。その時には箇条書きの羅列でしかなかった文章を思うところあって書き直し、せっかくだからサイトに投稿をしてみた。


この作品が多くの人に読まれるようになり、彼の心に火が付いた。小説賞に応募すれば審査員が作品を読んでくれ、評価の高いものは出版されることもあるが通常、読者は完成した作品のみを読む。執筆は本来孤独な作業であるはずなのだが、ネットで作品を公開することが一般的になった昨今では、書いたものを投稿すればすぐに読者がつき、次の更新を期待される。これが楽しく病みつきなる者も多いと言う。喩えるなら、小説よりも漫画作品の連載形式に近いかもしれない。以来、彼も毎日少しずつだがほぼ欠かさず内容を更新している。彼の名前は 東方勇(ひがしかた いさみ)。ペンネームは、 東上武(とうじょう たけし)とした。


毎日1000文字ほど書いて投稿すると、100日で10万文字。文庫本一冊の文章量がだいたい12万文字ぐらいで300ページになると言われているが、改行やセリフの多さによっても変わってくる。


週一回のペースで5000字ほど更新すると読みごたえがあると言うが、読み手の環境も多様でコンピューターの広い画面で読む者、スマートフォンで通勤や通学途中に読むもの、少なくなりつつあるがいまだにガラケーで読む者もいる。小さい画面で読む人には移動中の暇つぶしに毎日1000文字程度更新されるものを好む人もいるのだと言う。


自分が書籍化の作業の中で多く時間を費やしたのが編集者の「もっと会話文を増やしましょう」という指示への対応だった。授業の課題として書いていたころの文章では場面や風景の描写が箇条書きで続くような説明的な文章だった。


セリフ以外の説明の部分を「地の文」と言う。一般的な小説に比べるとライトノベルは軽妙な会話文が多いかもしれない。それを嫌う読書家もいるが、若者を中心に気楽に読めると人気がある。


いま書いている作品は、書籍化された作品の最新話である。


「というか、ずっと一つの物語しか書いていない」

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