第12話

勇は麻里亜の提案に感謝し、彼女のマンションに滞在することに決めた。


「小夜子はまだ自分の行動の全貌を理解していないようです。おれは彼女を守りたい」


麻里亜は勇の手を取り、優しく微笑みながら言った。


「心配しないで、一緒に乗り越えましょう。わたしはあなたのそばにいるから」


そして、麻里亜は勇と唇を重ねる。


「わたしとあなたの関係を知ったら小夜子ちゃんはどう思うかしら?」


「あの子の好意はあくまで世話になってる隣人へのものですから」


麻里亜は思った。


(そんなわけないでしょ)


麻里亜は勇とのキスを楽しみながら、改めて彼女を信頼できる人だと確信する。


勇が書いている小説は世間で「ライトノベル」と呼ばれるジャンルのものだ。


「鈍感系主人公」とはライトノベルの登場人物に多いタイプだ。鈍感系主人公は、感情表現が控えめで他者の気持ちに気づきにくいキャラクターで、このタイプの主人公は、物語を通してコミカルなシーンやドラマを演出するのに使われる。どんな場面で使われるかと言うと、例えば、恋愛展開では主人公が相手の気持ちに気づかず、微妙なシグナルを逃してしまうことがよくある。これが読者や視聴者に笑いやドキドキをもたらす要素となり、物語に軽快な雰囲気を与える。主人公の特徴を活かして物語を進めるのに便利な性格づけだ。


感情のズレが物語の展開やキャラクターとの関係を面白くする手法の一つと言える。


麻里亜は勇の書いた作品を熱心に読んでいた。彼の作品に鈍感系主人公は登場しないが、どうやら作者自身が他人の気持ちに鈍感なようだ。


麻里亜は勇といる時間に幸せを感じていた。彼の心には闇があり、それを自分だけが救ってやれると思ったからだ。


しかし、そんな気分を打ち砕く存在が現れた。


小夜子だ。彼女は麻里亜の予想以上の行動力で、勇との距離を縮めてきた。


もともとは特別にアニメや漫画のファンでもなかった麻里亜が東上武の本を手に取ったのは、たまたまネット上で書評を見ることがあったからだ。


彼の描く物語は、よくあるネット小説であるが人気が出て書籍化された。


異世界に召喚された少女は魔法の力を持つことが判明し、彼女は騎士としての使命を受ける。彼女は初めての仲間と共に、王国を脅かす邪悪な勢力と戦う。彼女は成長し、友情と愛に出会いながら、未知の力を開花させていく。戦いの中での苦悩や喜びを通じて、彼女は真の勇者としての運命に目覚めていく。しかし、裏で暗躍する陰謀も彼女を待ち受けており、最終的な戦いでは彼女が持つ力と信念が試される。と言った筋たてだ。

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