第8話 大学生ライトノベル作家

その日、作家、東上武は恵比寿のとあるビルの一室にいた。


雪城小夜子の記者会見場にもそう遠くない場所であった。


「勇くん、会場にいなくて良かったの」


長身の女性が彼に話しかけた。


「なんか弟子の晴れ舞台に師匠がしゃしゃり出るのも気恥ずかしい」


「彼女の晴れ舞台だもの。いたほうがよかったのではない?」


彼自身、21歳の若輩者で、まだ大学生の身分だった。


「おれは、あの子の先生です。それ以上でもそれ以下でもありません」


「すごいわ。 自分もまだ学生なのに、子どもを指導して、 芥川賞なんて最も権威のある文学賞を取らせてしまうんだものね」


二人はそんな会話をしながら、雪城小夜子の記者会見が始まるまでの時間を待っているところだった。


そろそろ会見が始まっている頃だ。


芥川賞の受賞会見はいつもその日のニュースで紹介される。 年2回の恒例行事だから、権威ある文学賞とは言え、生中継するほど一般の視聴者が関心を惹かれるものではない。 今回は歴代最年少の受賞ということで、大きな出版界のトピックにはなっている。まして、それが小学生での受賞となれば、例年にない大きな取り上げ方をされている。


二人が会見の様子を見られるのは、夕方のニュースになるだろう。


「小夜子ちゃん、会場で心細いのではないかしら」


「担当編集の浅川さんと角丸出版の常務も同席するから大丈夫さ。むしろ、おれがいた方が変だ」


「会場のすみっこにいるだけでも心強いのではないかしら」


「後方彼氏ヅラみたいでなぁ」


「後方彼氏ヅラ」は、日本のインターネットスラングで、直訳すると「後ろで彼氏を装うこと」を指す。発祥は女性地下アイドル界隈と言われる。彼女達のファンの間では、可能な限り舞台に近付いてコールやオタ芸をし、必死にアピールするのが良き鑑賞態度である、とする風潮が広がっていた。


そうした中では、周囲のノリに乗らず、後方で腕組みでもしてゆったりと鑑賞する一群が逆に目立つという事態が発生する。それは多数派から見れば「俺はお前らと違うと言わんばかりの上から目線」「会場の盛り上がりに水を差す厄介オタク」などと映り、中二病の一種として一段低い扱いをされることが常であった。実際に彼らの側からも「この前よりいいな」「俺も鼻が高いよ」等とまるで運営の一員であるかのような態度で講釈を垂れる者が出現しており、何様のつもりだという反感は増々強まっていった。以上の流れから最大公約数的に「自分を『恋人を陰ながら応援しつつライブが終わるのを待っている彼氏』だと思い込んでいる一般人」というネタが成立し、一言で「後方彼氏面」と呼ばれるようになったのである(出典:ピクシブ百科事典)。


この言葉は、主にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やオンラインのコミュニケーションで使用される。


この言葉は、ネット上の言葉遊びやコミュニケーションの一環として浸透しており、特に若い世代の間で使用されている。

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