第5話
受賞作のどのあたりに彼女の文学的才能の片鱗が見て取れるのか?
記者たちはその点を探るべく詳しく尋ねた。小夜子は少し恥ずかしそうに俯きながらも、一生懸命に答えた。
小夜子の受賞作『虹色の絆』は、小学生らしく1日の出来事が毎日決まった時間に起こるというシンプルな構成だが、そこにちょっとした工夫が施されている。時間ごとに少しずつ話が進んでいき、読者は主人公と一緒に日常を過ごしている気分になるのだ。さらに主人公の女の子と周囲の人間関係や恋模様などが上手く描かれており、ずっと読んでいたい魅力があった。そう思ったところで物語は終わる。
まさに彼女の才能の一端である文学的表現力が発揮されている作品だと言えるだろう
「小学生の雪城さんが文学賞を受賞したということは我々 大人たちにとっては大きな驚きです」
小夜子の隣で出版社の2人もうんうんと大きくうなずいている。1年前に発売されたデビュー作は、話題性もありヒットした。
「雪城さんが小説を書き始めるにあたって、誰か指導をしてくれる先生はいたのでしょうか?」
これは多くの人が感じている疑問だった。小学生に高度な文芸作品が書けるはずもなく、彼女の親族や身近なところにプロの作家や編集者がいて、手取り足取り指導しているのではないかと言う指摘はずっとされてきた。
「はい」
小夜子は記者たちや評論家が期待した通りの回答をした。
「わたしが小説を書き始めたのはある人との出会いがきっかけでした」
口ぶりから親族では無いようだ。
「それはどなたですか?」
記者が質問すると、小夜子は少しためらった後、答えを口にした。
「その方は」
「その方の名は?」
記者達も聞き取ろうとマイクを向ける。
「作家の東上武さんです」
記者達がすぐさまノートパソコンで検索する。新聞記者に馴染みがあるほどの知名度ではなかった。
『東上武は日本の小説家。東京都在住、大学生(書籍プロフィール欄より)。2016年『召喚勇者さまのお供をしています』(協和出版 ウェザーブックス)でデビュー。『召喚勇者さまのお供をしています』は『アガスティア戦記』のタイトルで小説投稿サイト『カケヨメ』に投稿されていた作品が書籍化されたものである。同シリーズは現在3巻まで刊行。累計発行部数はおよそ30万部』
3巻までで30万部ということは平均して10万部が売れていることになり、新人としては有望株と呼ばれているようだ。
「東上さん、不勉強で申し訳ありませんが、若手のライトノベル作家ですね」
芥川賞の受賞会見だけあって、この場にいるのは文化面を担当する文芸に明るい記者たちだった。
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