第4話
「私がもっと成長するために小説を書きたいですし、色々なジャンルに挑戦してみたいです。そして、もっと多くの人に小説を読んでもらえるように努力したいです」
記者たちはうなずきながらメモを取り、小夜子の意気込みに感心していた。
「なるほど、たくさんの人に読まれたいのですね。それはとても素晴らしい目標ですね」と記者が優しく言う。
小夜子は笑顔でうなずいた。彼女は少し緊張もほぐれてきたようだ。彼女の隣では編集者や出版社の偉い人が静かに見守っていた。
「雪城さんの受賞作についてお聞きしたいと思います」と記者が言う。
芥川賞だけあって雪城小夜子の受賞作品は短編だ。しかし、その前に小説賞に応募して出版された長編作品がある。それは小夜子にとっては初めての商業書籍化作品である。今回受賞した短編はその長編作品の前に書いたものだ。
小夜子がそう答えると、記者たちは身を乗り出してメモを取る。
「ジャンルとしてはライトノベルと呼ばれるものですよね?」
ライトノベルとは、従来の小説に比べて軽快で読みやすいものや、中高生などが読むようなライトな作品を指す言葉だ。一般的には「ラノべ」と略されることが多い。
「そうですね、私の作品はライトノベルというジャンルに分類することができます」と小夜子は答えた。
記者たちは興味津々な表情を浮かべながらメモを取る。そして記者の一人が質問する。
このライトノベルが発売された時も、大層話題になった。
「天才少女小説家現る!」と。
それが1年前のこと。 彼女のデビュー作は売れに売れた。新人としては異例の売り上げで、1巻と2巻の累計発行部数は80万部を超えた。まだ発表されてから1年の品なので、既刊は2冊しかない。これだけ売れる作品であれば、10巻20巻と長く続き、そのうち漫画の原作として採用されたり、テレビアニメとして放送されたりする可能性も高い。
もちろんそれは隠さずに公表された彼女の作者のプロフィールの衝撃によるところが大きい。
その作品はライトノベルとしては、地に足の着いた地味なものだった。
今、比較的簡単に人気を得られそうな作品は、平凡な主人公が神の導きにより異世界に移動、または転生し、世界で自分しか持っていない特別な能力を駆使して、夢を叶えていくタイプの作品だ。しかし、彼女の作品は、そういう類のものではなく、学校で起きたちょっと不思議な出来事を中心に、小学生の主人公の視点で日常が描かれていく。
そこにはちょっと不思議な様子もあるのだが、だんだんと日常が進んでいく中で、彼女の文学的才能の片鱗が現れていた。しかし、まさか、芥川賞を受賞することになると、デビュー時は誰も思っていなかったんである。
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