12 ep 一年後の鬼札
墓参りを済ませ、『わんこ』と安吾は寺を出る。昼ご飯を共にしようと提案され、安吾は瞠目した後嬉しそうに笑った。代わりに彼は買い物を手伝い、食品や日用品を運ぶ。買い物をしている間、『わんこ』の尻尾のフリは激しかった。
自宅の前に来ると、安吾は申し訳無さそうに笑う。
「本当に申し訳ないです。ご馳走にもなってしまい……」
「気にしないでって言ってるじゃん。お互い様の部分もあるよ。……それに」
彼女は笑みを作って彼に向ける。
「安吾さんが居なかった間、たくさん色んな事あったの。だから、たくさん私が話したいんだ!」
彼と一緒に居れることが嬉しく、『わんこ』は両耳を開けてまた尻尾を激しく降る。彼女を見て、安吾は大きく開眼して硬直した。そのままじっと動かない為、『わんこ』は心配になり声をかける。
「……あのー、安吾さん?」
「──えっ? あっ、すみません。びっくりしました」
我に返って慌てる彼に、『わんこ』は笑った。
「もー、安吾さん。私を見て、びっくりする? なんかついてたの?」
優しく聞くと安吾は困ったように笑いながら頬を赤くした。
「……いえ、僕がただ未熟なだけですよ」
「? 安吾さんが未熟? 長生きなのに?」
「ええ、未熟です。僕は現代人というわけではないので」
「……そうなの?」
安吾は頷き、『わんこ』は不思議そうに聞く。ごまかされたような気もするが、気にしないことにした。彼に背を向けて、『わんこ』は玄関の鍵を開ける。玄関を開けて、彼女は安吾に顔を向ける。
「安吾さん! いらっしゃい!」
「……ええ、お邪魔します」
照れくさそうに笑いながら、彼は歓迎を受けた。
彼は彼女の家に上がった。料理の手伝いをしようと考えたが、お客様にそうさせるわけにいかないとテーブルの席に座らせられた。申し訳無さを感じつつ花札で占いをすることにする。自分の運勢と『わんこ』の運勢を占うと話してから彼は手札を切る。
テーマは一年後の運勢。早速占おうとし『わんこ』の一年後の今日の運勢を出した。
安吾は言葉を失い、目を開いた。
白の余白がなく全体的に血のように赤い。雨が降る中、鬼のような手が伸びており雷神の太鼓を手にしようとしているような縁起の悪そうな絵だ。十一月の札の柳の種類の一つ。素札ではあるが、中でも鬼札と呼ばれる。
花札の中でも見た目から恐れられるもの。占いの解釈次第では良い方向には傾かないだろう。安吾は札を真剣な顔で見つめ、山札の中へとしまった。
代わりに今週の運勢に切り替え、占いの結果を出した。今週の運気は普通らしく安吾はほっとし、鬼札が出た意味を黙考する。
彼女から声がかかるまで、安吾は山札にしまった鬼札の解釈に耽っていた。
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