魔法使いのスパイ3

「細長くて速いもの……?」


 何か思いあたりそうで、何のことを言っているのかよく分からない。


 「見たら分かると思いますよ。どこにあるかは覚えているので」


「う……うん。ってちょっと待って」


 リアムは子猫とは思えないスピードで走っていく。ノアは茶トラの子猫についていくのが精一杯だった。


「ここですね」


 砂利の上に赤茶色の突起が続く地面が見えるところで、リアム は立ち止まった 。


 「電車……?」


 昔、知り合いの野良猫とここへ来たときの猫が、そう呼んでいたのをノアは思い出した 。

 リアムはそのまま、電車に乗るために細いゲートらしきものに向かい、通りぬけた。

 ノアもリアムに続く。ゲートを通りぬけた先には、短い階段があり、階段の向こうに、少し高くなった地面が続いていた。


「この道の脇を細長くて速いものが通るんですね」


地面より少し高くなった場所を歩いていきながら、リアムが言った。


「ところでこの高さだったら高所恐怖症は発動しませんか?」


茶トラの子猫は振り返って首をかしげた。


 「まあね」


ノアは電車が走るための変わった地面を見下ろした。


「来たみたいだよ」


ノアはどこまでも続く、突起がついた地面の向こうから、電車がこちらに向かってくるのに気づいて言った。

 

「太陽が登る方向に向かってますかね?」


ノアは空を見上げ、太陽の位置を確認して答えた 。


 「ぴったりその方向ってわけじゃないけど、反対方向に進んでいるわけでもないみたいだね」


それからノアは、どんどん近づいてくる電車に視線を戻した。

あれに乗ったら、私はどうなるんだろう。

もう、ここへは帰ってこれないだろうか。

物事を楽観視することが多い私だが、急に不安になった。


「電車に乗ったらここは戻ってこれないかもしれません」


リアムがノアの表情に気づいて言った。


「良いですよ。ここまでで、あとは僕一匹で行きます。都会というものの存在を教えてもらっただけで充分です」


ノアは返事に詰まって、茶トラの小さな子猫を見つめた。どこか私の弟に似てる彼。

この子には大人びたところがあって、私の方が頼りないくらいだけれど、こんな小さな子猫を一匹で行かせる?

電車は容赦なく近づいてくる。選択するのに残された時間はわずかしかない。

 

 電車が速度を落として、地面より高くなった場所の間に入ってきたとき、どこからか、水の入ったボトルがリアムに向かって飛んできた。

リアムは電車に気をとられていて気づいていない。

あのボトルが小さなリアムにまともに当たったら……。

 

 飛び込もうとしたが間に合わず、ボトルに当たったリアムは、衝撃でプラットホールのふちに向かって転がった。このままでは落ちてしまう。


「リアム!」

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ラストウィザード 澄海 @skylight_325

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