魔法使いのスパイ②
ノアは垣根の裏から出てきて、がらんとした公園を見渡した。リアムの姿はない。
公園の中央に立つ大木まで歩いていくと、どこからかかすかにリアムの匂いがした。
「リアーー」
ノアがリアムの名前を呼ぼうとした瞬間、頭上から茶色い塊が降ってきて、彼女は飛び上がった。
リアムは悪びれる様子もなく、ノアの目の前にひらりと着地した。
「 そういうのやめよう?」
ノアはなんとか声を出して言った。
「木の上から見てみたら、公園を出て左方向に歩いていくキジトラが見えました」
とリアム。
「そう!多分その猫だよ。ダイスはキジトラだからね。 追いかけよう」
ノアは公園のもう一つの出入り口に向かい、公園を出て左に曲がった。
車が通る道より一段高くなった細い道がまっすぐ続いている。
そして、ノアがいるところから猫十数匹分向こうをキジトラ猫が歩いていた。
「ダイス!」
私が呼ぶとキジトラ猫は足を止め、振り向いた。
「もっと人間がたくさんいて栄えているところに行きたいから、行き方を教えてほしくて」
とノアが言った。
「それは都会のことか。あるのはあると聞いたことはあるが、 そんなところへ行ってどうする気だ?」
ダイスが困惑して言った。
「僕が言い出したんです。人間の文明がもっと栄えているところが見てみたいと思って」
リアムが横から言った。
ダイスははじめて、そこに子猫がいることに気づいたようだった。
少しの間、子猫を見つめてからノアに視線を戻すと聞いた。
「君の子か?」
「ちがいます」
ノアとリアムは同時に答えた。
「そうか、まあ細かいことは聞かん。それから都会への行き方だが、都会は太陽の昇る方向に向かえばある、と聞いたことがある。だから、人間たちが移動するときに使う車に乗ったら行けるのではないかな?俺もはっきりと保障はできないんだが」
「なるほど、ありがとうございます。どうやって行けば良いか分かりました。ではまた」
ノアが答える前に、リアムが一息にそう言ってくるりと方向転換してダイスに背を向けた。ノアをおいてすたすたと歩きはじめる。
どうやっていけばいいか分かったって、まず、どうやって人間の車 に乗るんだよ……。
「ちょっと…あの子追いかけるんで、ありがとうございました」
ノアはあわててダイスにそう言ってリアムを追いかけた。
「どうやって車に乗る気なの?そんな簡単に乗れるものとも思わないけど」
「車に乗るつもりはないです。つまるところ、人間が移動するために使うもので、太陽の昇る方向へ向かうものに乗ればいいってことですよね。だから、砂利の道の上に突起が延々と続いている地面だけを走る、細長くて速いものに乗るつもりです」
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