魔法使いのスパイ①

「......スパイ?異世界からの ?」


 驚きすぎたせいか声がかすれた。

 

「僕の任務は、この世界に魔法が存在するのか調べることです。世界がいくつも存在すること自体、極秘な事だったんですが、僕としたことが、口を滑らせてしまった」


ノアはリアムの落ち込みようが気の毒になって、そっと尻尾で彼の背中をなでた。


「あなたのいた世界には、魔法が存在したの?」

 

「僕がいた世界には、魔法はありました。何なら、僕も使えました。でも、この世界に来て、なぜか使えなくなっ

てしまった。この世界で魔法が使えないのなら、もといた世界に帰ることもできない……」


 そういったリアムは心もとなさそうで無垢な子猫に見えた。


「なるほどね、世界がいったいどうなっているのかはよく分からないけど。帰る方法はないの?」


 「僕の師の、シルヴェスターに移動の魔術を教わっていました。もしこの世界に来て、魔術が使えなかったら帰りたいと強く願えと言われました。でも、何してもダメで……。多分この世界で魔術が効力を持たなさ過ぎて僕の思いがシルヴェスターに届かないのかも。届いたらシルヴェスターは魔術が使えないことを察して、僕を元の世界に召喚できると思うんですけど」


 「だったら、場所を変えてみたら?」


 「場所……ですか」


「昔、ここよりももっと人間の文明が栄えている場所があるって聞いたことがあるな。人間のまわりでは不思議な出来事が起こる。ていうことは、そこへ行けばたくさんの人間がいるわけで、さらにたくさんんの不思議なこと起こると思うんだ 。そういうところのほうが魔力が効力を持つかもしれない。だって人間は魔法を使えるのかもしれないし」


「そこへは、どうすれば行けますか?」


「分からない」


ノアは困ったように尻尾をたれた。


「近所に私より年上で経験豊富な野良猫がいるから、彼に聞いてみるよ」


ノアはリアムを連れて、公園へ向かった。リアムはノアの後ろから無言でついてきた。

公園の垣根の裏にまわった。ノアたちがさがしている野良猫、ダイスは、そこを寝床にしている。だが、残念ながら垣根の裏にダイスはいなかった。ダイスが寝ていたのであろう地面の窪みが、まだ、かすかに温かい。


「今日、ここで寝てたみたい。また遠くに行っていないはずだよ」


ノアは地面から顔をあげ言った。リアムの返事はない。


「リアム……?」


またもや、リアムが消えた。

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